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「……だから太刀川さん、レポート頑張ってるの」

　火花飛び交うあの模擬戦を心から愉しんでいた迅くんと太刀川さんのことを知っている。一体何年ぶりの迅くんとのランク戦になるんだろう。ちょっとどころじゃないくらい羨ましい。私まで鮮やかな期待に胸が満ち満ちていた。

　前のめりになっていた上半身を戻して硬い表情を解くと、髪を掻き乱しながら画面を睨んでいた太刀川さんがすっと目の奥の機嫌を和らげて私に視線を移した。バタバタバタと急かしていたようなタイピング音も息を止めるので私は不思議に思って瞬く。

「ほー意外。玉狛の奴ら絶対キレると思ってたんだが」
「誰に？」
「迅に」
「迅くん？どうして？」
「形見だろ。アイツ自分から差し出して上層部黙らせたんだぞ」

　静かにそう言った太刀川さんの目の少し下でしばらく考える。気持ちを探る。私は「たしかに」と先に一言添えてーーでもね、

「ほかの人たちがどう言うかは知らないけど……風刃を持ってたのは迅くんだから迅くん以外が昨日のやり方に口出しなんてできない。放すとか持ってるとか、そんなの迅くんの勝手。それに武器ひとつで後輩が守れるなら……きっと、私も迅くんと同じことをすると思う」

　そもそも迅くんが浅はかな考えでそんな選択を取ったはずがない。他にも方法はあった。あった上で風刃を手放すことを最善として取ったに違いない。

　……けれど、武器とはいえそれが自分の大切な人が成った黒トリガーなら私は最後まで迷ってしまうだろう。手元の寂しさに泣いてしまうかもしれない。自分が辛いことをちゃんと飲み込んで行動をやってのけた迅くんは本当にすごい人だと思うし、だからこそそんな苦い決断をする目に遭ってほしくない。

　それでも迅くんはきっとこう言う。──未来はもう動き出してる。

　だから、本当にすごい人。

「……ちゃんと迅くんのことボコボコにしてあげてね」
「……お前実は迅のこと嫌いだな？」
「なんでそういうことになるの？前みたいに楽しませてあげてって意味！」

　「はやくレポート終わらせたら！？」「お前が話を引き伸ばすからだろうが！」「なにそれ！太刀川さんがあんな話始めるからでしょ！」喧嘩と誤解されかねない喧騒がラウンジを飛び交い私は我も恥も忘れる。

　他の隊員の不審げな視線に釘付けにされていることに気づかないうちに両肩に手が添えられた。風に躍らされる葉っぱみたいに軽やかな声が私から太刀川さんへと通る。