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剣呑ー０１° ページ20

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　迅のそつがない手回しは争奪戦の勝利を手にした。音さえ息を潜める暮夜の中で男三人の白い息が昇り、闇に還る。

「あー疲れた、てかアイツ結局何しに来てたんだ」

　「飛び入りのくせに三人もぶっ飛ばしやがった」と太刀川は無糖珈琲を喉に流す。楽しそうだ。何せ狙撃手でない人間が、弾道解析によると400メートルも離れた地点から変化弾を仕掛けてきて、さらに全発命中ときた。どんな隠し芸だよ、ちょっと詳しく話を聞かせてもらおうか。そんなテンションだ。
　飲み干したコーンスープの缶をくずかごに投げ捨てた迅は太刀川へと視線を持ち上げる。

「おれ一人でかわいい後輩を守ってやろうっていう粋な計らいがバレてたんじゃない？はじめての後輩だから張り切りたかったんでしょ、あの子年下好きなんだ。城戸さんにはチクんないであげてね」
「城戸司令って成海に怒れんの？」
「公私混同はしないじゃん〜」
「お前予定外だと言っていたが成海の加勢は予知できなかったのか？」

　寡黙な赤瞳で寄越した風間の発言に迅は瞬きを止めた。「別に悪い意味じゃない、珍しいと思っただけだ」と足した風間の口端から白い吐息がゆらりと震える。そこに関しては太刀川も同意らしい。興味のある眼差しが迅のほのかな笑みにあたっていた。
　やわらかなその顔つきが崩れることはなく、川が流れるように声が通っていく。
　
「完全に読み逃してたね、視えてなかった。そもそも風間さんたちの攻撃凌ぐのに手一杯だったしさあ」

　最後は皮肉か？と血管が内側で反応するも風間は理解したように目を伏せた。野外に設けられた休憩ブースに吹きこむ鋭い北風が三人の頬を掠めて生身を突っ張らせる。
　一桁台の厳しい気温に痛む耳朶よりも、迅は視界よりも前に現れているAの様子に目を光らせていた。

　長時間の防衛任務をはじめサイドエフェクトを意識するほどその後のAはよく寝る。死んだように深く眠る。
　Aの知覚能力は常人の程度を遥かに越しており、激しい脳活動を強いるサイドエフェクトに身体が長いこと耐えられず頭痛や発熱など反動症状を引き起こすからだ。

　400もの離れた位置からならば変化弾の弾道操作は複雑になる。比例して身体の影響も重くなる。迅は一歩後ろに下がり、手前の太刀川たちに申し訳なさそうに笑った。
　
「じゃあ話の途中で悪いけどおれはここで失礼するよ」
「ああ」
「おー、ってかランク戦覚えとけよお前！」
「あ〜また今度ね」