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　　ー０３° ページ18

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「バイパー」

　右手の上の64分割したトリオンキューブは快速に──古寺、奈良坂、歌川へと駆け抜けてゆく。

　視界情報を取り入れると高度な空間認識能力が地形情報──位置、形状、距離などを完全理解する。この空間認識は人間に対しても適用され、さらにAの視認可能範囲内の人間の位置を基礎として行動パターン候補、大雑把に把握した戦闘状況や経験則などの要素を精密に組み合わせた結果を用いることで全方位を脳内で三次元的な仮想空間を構築する。その限りなく現実に近い空間構築を360度の視野として把握する常軌を逸した技能はサイドエフェクト「強化空間知覚」として診断された。

　空間認識能力は言うまでもなく空想力、客観的視点などがハイレベルで要求される変化弾の操作だが、高いトリオン能力が作用しその能力が異常発達したAなら迅の戦闘地点から400メートルは離れたこの位置からでも弾を命中させることが可能だった。その操作は訓練の途中にあるが、不規則かつ複雑な軌道を描くAの変化弾操作技術は今後合成弾の名手と謳われる出水と那須を遥かに凌ぐことになる。

　迅の風刃が菊地原の首を飛ばす。同時にAの変化弾は歌川の供給器官を正確に貫くと、間もなく屋根裏の古寺と奈良坂の伝達脳も爆撃された。月見のアラートは間に合わなかったようだ。
　流星じみた三つの光線が夜を穿ってゆく。その様子を鋭い眼差しで見送ると Aはそっと右腕を下ろした。

　疑問に思うことがある。風刃の起動が遅いように感じた。嵐山隊が援軍として加勢しているのならば尚更起動したほうが戦闘を手早く終わらせられるのに。
　早とちりしていたが、空閑の本部入隊は玉狛のエンジニアであり近界民でもあるクローニンがボーダーに在籍していることを考えれば同じくして許可されなければいけないことだ。Aはてっきり城戸派による近界民排除がこの内戦の理由と予想していたが空閑の排除が目的ということではないのか。しかし太刀川隊らが向かおうとしていた方向の先には玉狛がある。ではやはり標的は空閑なのだろうか。

　なにかしらの計略があるに違いないとAは考えたがもう後でいい。もうどうでもいい。後輩が絡む揉め事を迅一人で解決させたくなかったのは確かだ。しかしその話はまた今度にしたい。
　Aの思考は通常を超えた脳活動で限界を迎えようとしていた。生身の状態が危ない。トリオン体でいるうちに早急に玉狛に戻るべきだった。