【WT】From 0 (ページ20)

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　人はいつか死ぬ。でも人が殺されてしまう世界なんてどうかしてると昔のわたしが心の真下で叫んでいる。そんな叫びは私には手遅れで、権利すらないのに。

　こんな悲劇起きなければよかった。それが一番よかった。でも起きてしまったものはしかたがないもの。理不尽には誰かが戦わないとみんな殺される。だから私たちは立ち上がった。この剣を持って。
　
　「痛い」「助けて」「怖い」「死にたくない」が耳を穿つ。それでも手のひらの命をわざわざ零す私たち。私たちを生んでくれたいとしいこの町の、たくさんの灯火を消している。すこし前までのやさしいわたしが胸のなかで死にゆく。さようなら。かなしくて、弧月を持った右手がほんの少し緩んだからみんなに気づかれないように握りなおした。

　私はもう戻れないけど大丈夫。もう諦めることができている。世界は血を流さずにはいられない。どの世界も誰かの骨の上にできた場所。
　そこらじゅうにくたばる命はなんのため？私たちが守らなければいけないのはなに？右肩のかすり傷をさする。私はこんなところで負けられない、死ねない。

　消えたという城戸さんの笑顔、歯痒そうにつくられ
た忍田さんのこぶし、煙草を何箱も吸い潰す林藤さんの横顔。雨に流される血も、誰かの涙も、盗まれた命も、ここは夢じゃない。あの日戦うことを決めた瞬間の心臓の一音を一生忘れることはない。戦うための剣はこの手にある。ここは地獄の途中。

　きっとこれは誰かのための正義だから。正義、せいぎ、せいぎ、せいぎせい、ぎ、せい、ぎせい、犠牲もあるけれど、あるけれど……。あと少し、あと少しだけ。たとえいつ終わるか分からなくても、あと少しを頑張りつづけていればいつか終わってくれるから。

　みんなが私たちを頼りにしていてくれるから私がもっとちゃんとしてなきゃだめなんだよ。ここまで頑張れているんだから最後まで頑張れるはず。頑張らないといけない。弱音はだめ、涙もだめ。トリオンだってまだある。右手の握力も残っている。私はまだ立っていられる。この両足だって、斬られるわけにはいかない。

　雨で緩んだ地を踏む。
　
　未来に並べられた選択のうち最も善(ただ)しいといえるものを迅くんがとった。間違っていない。首を横に振らなかった自分たちも間違ってなんかいない。だから後悔なんてどこにもない。振り返ってやらない。

　間違ってない。叫び声が聞こえる。雨はまだ止まない。間違って、ない。