one more chance【御幸一也】 (ページ14)

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練習試合当日

午前中は千葉の有田高校と試合し、薬師とは午後の予定だ。

午前の試合は川上が投げ、バックに助けられながらも勝利。

問題はこの後だ。

御幸「沢村」

沢村「なんすか？」

試合前のベンチで沢村はドリンクを飲んでいた。

沢村のやつ平気な顔してるけど、もうこの時には自分では気付いてんだよな。

御幸「ま、まあ、いつも通り元気よくマウンドに立てよ。それと、俺のミットだけ見とけばいいから」

俺の言葉に、沢村だけでなくベンチにいたみんながきょとんとしていた。

倉持「な、なんだよ御幸、きもちわりーぞ」

沢村「たしかに···。キャップが試合前にそんな優しい言葉をかけてくるなんて···裏があるとしか···」

御幸「聞かなかったことにしろ」

だめだ。余計怪しまれるだけだった。

結局試合結果は変わらず、7対2のボロ負け。

沢村のイップスが判明し投球禁止に。

御幸「はぁ。ダメだな、俺」

一人ブルペンでキャッチャー練習をしながら、頭を冷やした。

まあ、これが沢村が変わる大きなチャンスととらえよう。

どうなるかわからないけど。

「お疲れ様」

ブルペンの横から、ずっと聞きたかった声が聞こえた。

御幸「七瀬！」

俺はすぐネット越しの七瀬に駆け寄った。

A「最後の試合、惜しかったね」

御幸「いやいや、ボロ負けだよ。七瀬にいいところ全然見せられなかったし」

A「そんなことないよ。かっこよかったよ」

御幸「えっ」

七瀬の言葉に俺の心臓が跳ねた。

そして一気に顔が熱くなった。

A「あと倉持くんも、沢村くんも、みんなかっこよかったよ」

ああ、やっぱりね。そうだと思った。

ちょっとがっかりした気持ちを押さえつつ、俺はブルペンから出た。

御幸「こんな時間までいたのか？」

A「うん。お父さんがちょっと遅れるって。もう少しで最後だから学校を見て回ろうかなーと思って」

そう言って七瀬は微笑んだ。

夕日が差して、七瀬を照らす。

胸元の黒い石のついたネックレスがキラリと光った。

あれ··この間つけてた時は赤い石だったような。

俺の口からとっさに出た言葉は···

御幸「迎えが来るまで相手してやるよ」

何でこんな上から目線でしか言えねーんだ俺は。

A「ほんとに？じゃああそこのベンチで話しよ」

七瀬は嬉しそうでちょっとほっとした。