大人の味 ab ページ3
残業を任され、うんざりしながらパソコンと向き合う、水曜の二十一時。
今日は動画が撮れないな。そう考えると、溜め息が出る。
人も少なくなった定時過ぎのオフィスだが、まだ奥の方のデスクに四、五人の人影が見える。
｢アブさん、お疲れ様です。珈琲飲みますか？｣
｢じゃあ頼もうかな｣
向かいのデスクに座るAちゃんが、パソコンの間から、ひょっこりと顔を出した。
彼女は、俺が教育係として任命された新卒社員。
三ヵ月前に入社したばかりだが、仕事の覚えが早く、部内でも評判だ。
残業を頼まれているのは、その為だろう。
暫くして、ほくほくと湯気を立てるカップを二つ持って戻ってきた彼女。
｢わざわざごめんね｣
｢いえいえ、私のついでなので、お気になさらず｣
愛想の良い笑顔で俺にカップを手渡してきた彼女から、｢ありがとう｣とそれを受け取る。
｢Aちゃんも、残業お疲れ様｣
そう言って、引き出しからアルファベットチョコレートを取り出し、手渡すと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
｢ありがとうございます｣
｢甘いものは疲れに効くからね｣
そう言って、チョコレートを口の中に放り込むと、甘い味とカカオの香りが、口いっぱいに広がった。
｢はい。それに私、甘いもの大好きです｣
彼女も、それにつられるようにして、チョコレートを口に含んだ。
｢だから、珈琲は飲めなくて…｣
そう言って、彼女は自分のカップの中身を見せてきた。
コーヒーが注がれていると思っていたが、そこにはカフェオレがゆらゆら揺れていた。
｢大人になったら勝手に飲めるようになると思っていたんですが、そうもいきませんでした。
アブさんは、やっぱり大人ですね｣
照れたように頬を掻いた彼女に、｢そんなことない｣と笑った。
｢じゃあ、試しに飲んでみる？｣
｢いいんですか？じゃあ、頂きます｣
まだ俺が口をつけていないこともあってか、そんな事そもそも気にも留めていないのか。
彼女は、俺の手前に置かれたカップを手に取った。
その時俺は、何を思ったのか。
カップが握られた彼女の手をそっと掴み、代わりに、俺が立ち上がって顔を近づける。
背の低い彼女の顔には、座っていても少し腰を浮かせば、こちらの顔が届いてしまう。
｢ごめんね。俺も大人じゃないんだ｣
そっと唇を離す。
｢大人の味がします｣と、口を手の甲で抑えた彼女に、つい笑ってしまった。
それはきっと、珈琲の味だけじゃない。
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あるばか(プロフ) - 凛さん» ありがとうございます！！コメント貰って、にやにや止まりません((( 神様だなんてそんな、滅相もないです！！頑張ります！これからもよろしくお願いしますm(*_ _)m (2017年5月28日 16時) (
レス) id: 388bcc62ae (このIDを非表示/違反報告)
凛(プロフ) - いつもと違う感じのお話を書いていてもものすごく面白いお話を書いてくださるあるばかさん！！いつも読ませていただいいています！！！！これからも頑張ってください！！！！あるばかさん、神様です！！！！ (2017年5月28日 16時) (レス) id: d1dc2771a6 (このIDを非表示/違反報告)
あるばか(プロフ) - 奈菜氏(ナナシ)さん» ありがとうございます！頑張ります！リク喜んでー！(°ω° )/書かさせていただきます( 'ω')b (2017年2月19日 13時) (レス) id: 388bcc62ae (このIDを非表示/違反報告)
奈菜氏(ナナシ) - とってもおもしろいです！更新頑張ってください！リクエストいいですか？キヨさんの嫉妬みたいです！ (2017年2月19日 12時) (レス) id: f86cca3e36 (このIDを非表示/違反報告)
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