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STORY 37 ページ37

歩いていたマシューは足を止める。トムはいち早くそれに気づいて駆け寄り、力なくその場に膝をつき、倒れそうになった身体を支える。彼は呼吸を乱しながら何かを探しているかのようにしきりに視線を彷徨わせていた。

「マシュー、掴まって。医者に」

「平気だ……眠れないだけで……」

 そう言った直後、咳き込んだのを見てトムは顔色を変える。
 マシューの病気にはとっくに気づいていた。彼が二年前から薬を断っていたことも。そして医者に診せることを頑なに拒む。これではまるで死にたがっているようではないか。
 マシューの腕を自分の肩にかけて支え、立ち上がらせる。トムは迷った挙句、そこのほうが近いのもあってひとまず彼が普段取り調べを行っている場所へ連れて行くことにした。
 マシューは半ば朦朧としているのか、トムに身体を預けながら自ら語り始める。

「俺は無能なんだよ。だから弁護士の仕事も上手くいかなくて、食べていくのも苦労した。魔女狩りがこんなに儲かるなんて思わなかった。無実の女を簡単に魔女に仕立て上げて、金がもらえる。こんな時だけ、今まで学んできた法律の勉強が役に立つとは皮肉だよなぁ……俺が殺した中に魔女なんて一人も居ない。そんなの最初から信じちゃいねぇんだよ。全部、上手くいくって、思ってた。なのに今は……こんなザマだ」

 衝撃的な告白にもトムは一切表情を変えなかった。ただ、思わずマシューの腕を掴む手に力がこもった時にその腕があまりにも細く、異常に痩せていることに気づいて僅かに眉を寄せる。

「クラウディアは、もう現れない。その代わりに他の女共の霊が……前より一層ひどくなった。あの女は今まで何しに来てたんだ。俺を怨んで出てきたくせに」

 ようやく本部に辿り着き、部屋の奥にある椅子にマシューを座らせるとトムはぽつりと呟いた。

「……あの人はずっとあなたの身を案じてた。仕事は上手くやっていけてるのか、今も困ってないか、マシューの話題になるとそんなことばかり話してた」

 マシューは何も言わない。俯いた彼の表情は帽子の影に隠れて読み取ることは出来なかった。

「一夜限りの関係で、妊娠した途端にどこかへ消えた。自分は遊ばれただけで捨てられたも同然だった。それでも……どうしてもあなたのことを嫌いにはなれなかった。心のどこかで幸せになっていることを願わずにはいられなかった。彼女はあなたを殺したかったんじゃない。止めたかっただけなんだ」
 

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田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます!はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです!マシュー、……あ、愛してる…って言いました……? (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます!好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年5月5日 13時

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