STORY 33 ページ33
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「おい、聞いたか? 昨晩スティーブが死んだって。しかも自分で腹ぶっ刺して」
「嘘だろおい。クラウディアも殺されてガキ一人だけでどう生きるんだよ」
「なあ、こんなこと言うのも不謹慎かもしれねぇけどさ……その子供――マーロンのことでトムから聞いたんだ。あいつ、スティーブと付き合い長いから結構知ってたんだと」
「何のことだ?」
「マーロンは確かにクラウディアの息子だ。けど、あの子の本当の父親は――スティーブじゃない」
マシューはベッドの壁に寄りかかり、眠るマーロンをかれこれ一時間飽きもせず見つめていた。
「フッ……いつまで大事そうに持ってんだか」
握る指を一本ずつ解いていき、針を取り返す。
「今日は寝てようかな」
思わず呟く。発狂されかけた上に肩と脚を刺され、その傷の手当で随分な時間を食ってしまった。包帯を巻くのは得意ではない。クラウディアにも『下手』だと笑われたくらいだ。
「スティーブは……ああ、死んじまったんだ。あいつのほうがこいつの父親に相応しかったのに」
マシューはそっとベッドから降りて身支度を整えると名残惜しげにマーロンのほうを振り返る。
「こいつ、一人にして大丈夫かな。俺が居ない間に死んでたらどうしよう。やはり休んでしまおうか。水審判は明日でも出来るし」
とても疲れていた。毎晩クラウディアの霊に怯えていたせいでもある。どうしようもなくだるくて苦しくて誰かに泣きつきたくなる。
マシューはベッドの端に腰掛け、マーロンの髪を撫でた。
「遊びだったんだ。あの頃クラウディアは十五歳にして有能な兵士だった。別にガキが欲しいなんて思っちゃいなかった。お前が生まれるのを望んでた訳じゃねぇ。……でも、生まれてこなきゃ良かったとも思えねぇんだよ。生まれる前にあの女と別れたから最初はお前のことが分からなかった。けど、あいつ『もし生まれるのが息子ならマーロンと名付けたい』なんて言ってたから」
彼はこみ上げる感情を必死に抑えようと自らの両腕に爪を立てる。
「おかしいよなぁ。お前が魔女って本気で信じかけてんだよ。だって……魔女じゃねぇなら俺は、今更お前が欲しいなんて思うわけがないんだ。たかがほんの遊びで契りを交わした挙句に偶然生まれたガキを……こんなに愛してしまうわけ……」
マシューは片手で目元を強く押さえた。弁護士になりかけの頃、容疑者に深く同情して泣いてしまいそうになったことが何度もあったのを思い出した。
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田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます!はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです!マシュー、……あ、愛してる…って言いました……? (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます!好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年5月5日 13時