STORY 1 ページ1
「また母親のとこから逃げてきたのか」
時刻は夜の八時。町に住む者は皆、帰宅しているか酒場で飲みふけっているかのどちらかなので通りを歩く人の姿はない。
教会の階段の暗がりに座り込んだ幼い少年は頭上から降ってきた親しみを感じる声に顔をあげる。
「いつもここに来ているな。俺の親父に会いたいなら中に入ればいいのに」
少年の背後に佇む教会の牧師は人々から敬愛されている。少年に話しかけてきた売れない弁護士の若い男はその牧師の息子だった。
「ここにいたら落ち着くんだ」
「そうか」
男は薄く笑い、少し経ってから少年の隣に腰掛ける。
「お前の母親はそうとう怖い女なんだろうな」
「夜になると怖くなる。昼間は僕にもパパにもあまり優しくないだけなのに、夜になると、なんだっけ、そう、魔女みたいなんだ」
「魔女?」
「うん。夜遅くに帰ってきて、甲高い声で怒るんだ。叩いたり、引っ掻いたり、パパがかわいそうなんだ」
そう言う少年の頬には殴られたような痣がある。それを見た男は眉をひそめた。
「本当にどうしようもない女だな。一体全体なんで結婚したんだか……おっと」
男は慌てて口を噤む。子供の前で言う言葉ではないかもしれない。
「なんだか怖い。女の人って、皆あんな感じなのかな。だってママと話してる人たちもママみたいに昼間はどこかの男の人の悪口ばかり言って。同じ顔で、ママと同じように笑ってた。だから女の人は皆、夜は魔女になったりするのかな」
沈んだ様子の少年に男は「そんなことはない」と言う。
「少なくとも良い女に会えてないだけだ。全部が全部そうじゃない……と思う」
男はふと自分の母親はどうだったかを思い出そうとした。少なくともヒステリックに怒鳴られた記憶も理不尽に殴られた記憶もない。女から生まれた以上は女全般を否定したくはない。
それを聞いた少年は少しだけ表情を軽くしたが対する男は一層深刻そうな表情を浮かべる。
確かに全ての女を否定したい訳ではないが、果たして信じても良いのだろうか。とてもじゃないが、馬鹿にしてくる女共を無視し続けるにも限界がある。人の口に戸が立てられる訳じゃあるまいし、どんなに無視していようが耳触りな声や笑い声は嫌でも耳に入ってくる。いつか我を忘れて殴り殺してしまいそうだ。
男は両手で顔を覆った。自分が今どんな恐ろしい形相を浮かべていたか分からない。
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田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» ただでさえ無実の女性を平気で殺しまくってる人ですからね。どこかもう自分でもどうしようもできないほど壊れてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 田無苑珠さん» もう色々とアレな人になっちゃってますねミスター・マシュー (2017年6月5日 20時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - 寝夢さん» 読んでくれてありがとうございます!はい、言いましたw……と、言っても実は恋愛という意味ではなくて、本人もよく分からない感情をマーロンに抱いてるんです。 (2017年6月5日 20時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
寝夢(プロフ) - 面白いです!マシュー、……あ、愛してる…って言いました……? (2017年6月5日 10時) (レス) id: 0c9f17ee4b (このIDを非表示/違反報告)
田無苑珠(プロフ) - ロイヤルストリートさん» ありがとうございます!好きになってくれて嬉しいです (2017年5月23日 13時) (レス) id: f9f63da005 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年5月5日 13時