■(6) ページ44
それから、お兄さまの指示のもと、脱出するためのボートの用意も終わった。
少し一息つき、このタイミングを逃すと満足に治療ができないかもしれないと、お兄さまに左手首のことを伝えたら、
「そういうことは早く言えっ！」
と怒られてしまった。
お兄さまの手ずから湿布にサポーターに包帯と巻かれ、終いには三角巾で腕を吊りさげられる。
『三角巾は大げさでは……？』
「いーや、これから何があるか分かんねーからな」
『そう、ですかね』
「そうだ」
お兄さまの真剣な目に押され、このままでもいいかと受け入れる。
周りから生温かい目が集まっているような気がしたが、気のせいだと割り切った。
いちいち気にしていると、らちが明かない。
私の応急手当が終われば、あとは沈没していく船から脱出するだけ。
お兄さまに抱かれて、氷帝の皆さまと同じボートに乗り込む。
荒れに荒れ狂う大波に、このボートも転覆してしまいそうだ。
だけど、ボートに乗ってもまだ、やっぱり不思議に思うの。
『榊監督とか、大人の方はいらっしゃらないのですか？』
「……あぁ、どこにも見当たらねぇ」
『ご無事だと良いのですが……』
お兄さまは何も答えない。
大人たちがいないからこそ、お兄さまが“跡部家として”指示を出していたのだ。
私に聞かれるまでもなく、大人たちはいなかったのだろう。
不安を隠せない氷帝の皆さまの表情に、言葉を間違えたと気がついた。
『ごめんなさい、気を使えない質問でしたね』
「Aが謝る必要なんてねーよ」
お兄さまに少し乱暴に頭を撫でられたついでに抱え直され、波風からさらに守られる体勢になる。
本当は私がお兄さまを雨風から守れれば良かったのだけれど。
もし万が一お兄さまがここで風邪を引いて倒れてしまったらみんな困ってしまう。
だけど、お兄さまよりも身体が小さい私がお兄さまを嵐から守ることなんてできないから、素直にお兄さまにぎゅっとしがみついた。
波風にあおられて大きくボートは揺れながらも、どのボートも転覆せずに遠くに見える無人島へと漕ぎ進んでいく。
「てめえら、あともう少しだ！ 気を抜くんじゃねーぞ！！！」
お兄さまが風に負けないように声を張り上げた。
それから少しして、ボートは島へと上陸する。
無事に上陸できたものの、不安そうな中学生たち。
お兄さまだって不安も心配もあるだろうに、そんな様子は見せずに彼らに活を入れた。
「予定とは狂っちまったがサバイバル合宿には変わりねぇ！ 救助が来るまで合宿を行なうぞ！」
こうして、お兄さまたちのサバイバル合宿は予定外ながらも始まった——
続く (更新停止中)
お気に入り登録で更新通知を受け取ろう
←■(5)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 185人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かるぴん(プロフ) - 悠莉さん！お元気そうで良かったです！いえいえ謝ることは全くありません！！そしてしてまさかの更新！？すごくずこく嬉しいです。ありがとうごさいます！これからも楽しみにしています。無理ない範囲で頑張ってください！応援してます！ (2023年3月8日 3時) (
レス) @page33 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
悠莉(プロフ) - かるぴんさん» お久し振りです…！前回のコメントより更新できず、すみません…更新が止まっている間も何回もお読みいただきありがとうございます…！続きも楽しみにしていただき、感謝してもしきれません…！少しだけですが更新しますので、もう少しだけお待ちください…！ (2023年3月5日 23時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 悠莉さんお久しぶりです。お元気ですか？またまたこの作品を読み返していました。何回読んでも面白くて読む手が止まりません(笑)この作品と悠莉さんの大ファンです！続きがありましたら是非読みたいです！ (2023年2月15日 15時) (レス) @page32 id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
かるぴん(プロフ) - 悠莉さんお元気そうで安心しました😌お忙しい中返信していただきありがとうございます！いつまでも楽しみに待ってます🙋♀️これからもお体に気をつけてお過ごしください☺️ (2022年5月19日 3時) (レス) id: e2b715c702 (このIDを非表示/違反報告)
悠莉(プロフ) - かるぴんさん» 返信が遅くなり、すみません🙏かるぴんさんお久しぶりです…！続きを楽しみに待っていただきありがとうございます…！気が付けば1年以上お待たせしていますね…私生活に慣れて落ち着いたらまた書き始めたいと思うので、今しばらく待っていただけると嬉しいです…！ (2022年5月18日 21時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：悠莉 | 作成日時：2020年10月5日 20時
