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それから、パッとお兄さまは私の頬から手を離した。
「肝心のAの気持ちを聞いていなかったな」
『Aの、ですか?』
「Aは忍足のことをどう思っている?」
俺に遠慮しなくていいぞ、とお兄さまは寂しげに言葉を続けた。
改めて悩んでみる。
下手なことは言えないから、よく考える。
私は、忍足さんのことをどう思っているんだろう?
多分、悩んでいるからどうでも良い存在ではない。
だけど、他の方のお名前はすんなりと呼べるのに、頑なに忍足さんのお名前を呼ばないのはお兄さまが嫌がるから。
だから、お兄さまと忍足さんの間に挟まれたら、私はどうしてもお兄さまを選んでしまう。
違う、お兄さまのことは考えないで忍足さんのことだけを考えなきゃ。
軽く頭を振って、思考を切り替える。
忍足さんに好かれることは嫌ではない。
どうして? なぜ? と不思議に思うことはあっても、忍足さん自身を嫌いになったことはない。
初めてお会いしたとき、人前では良い子でいる私を気遣ってくれた忍足さんの姿は嘘ではないと思いたい。
あれは、純粋な心配からきたものだと信じたい。
かといって、好きかどうかと聞かれれば、それはすぐには答えられない。
私が忍足さんのことを思う気持ちと、忍足さんが私を想う気持ちはどこかズレているように思ってしまうから。
崇弘さんにはその違和感を抱かないのだから、やっぱり忍足さんの私への接し方はどこか違うのかもしれない。
私の気のせいからか、先入観からか。
私が勝手にそう思って、実際は変なことを考えていないのに忍足さんから距離を取ることはあまりよろしくないだろう。
私は忍足さんを嫌いではないけれど、好きと答えるにはまず忍足さんが私をどう想っているのかはっきりさせない限り答えられない。
これが私の出した、今の結論。
さぁ、お兄さまに伝えようと、それまで閉じていた瞳を開いた。
『ひっ、』
想像よりも注目されていて、小さな悲鳴が漏れた。
忍足さんはもちろん、四天宝寺の皆さまも笑いが収まったのか真剣な眼差しで私をよく見ていた。
私は忍足さんだけをまっすぐと見る。
『……おしたりさんは、Aのことをどうおもっていらっしゃいますか? Aがこたえるまえに、おしえていただきたいです』
「俺は、Aちゃんが好きやで」
途端に、私の視界から忍足さんの姿が消える。
お兄さまが、私の目を大きな手で覆ったからだ。
お兄さま基準では、忍足さんの答えはアウトだったらしい。
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悠莉(プロフ) - I like choco さん» 休んでいた間に書き溜めていたおかげです(笑)ですが、お話のストックも尽きてしまったため続編はお待たせしてしまいます…無理はしませんが、ご心配ありがとうございます! (2020年9月30日 22時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
I like choco - 更新早いのすごい嬉しいです!ただ、無理はしないでくださいね! (2020年9月30日 21時) (レス) id: 21ebe68129 (このIDを非表示/違反報告)
美麗 - 更新ありがとう。ちょっと遅くなってごめんなさい。拝見しました面白いかったよ。 (2020年9月4日 0時) (レス) id: da294cd674 (このIDを非表示/違反報告)
美麗 - 返事有難うございます。まぁ見えないのはありますが どことなく分かりますので大丈夫です。テニプリは大好きです。最も好きなのは青学 氷帝 立海 四天宝寺 六角かな何かさテニスの王子様ってさ夢見る乙女感じだよねぇ。ずっと応援しています頑張って下さいねぇ。 (2020年9月3日 20時) (レス) id: da294cd674 (このIDを非表示/違反報告)
悠莉(プロフ) - 美麗さん» ゲーム機からだとページの読み込みとか大変ですよね…それでも私の作品も選んでいただけてとても嬉しいです♪応援もありがとうございます!更新頑張りますね! (2020年9月3日 20時) (レス) id: 5c790ea34a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠莉 | 作成日時:2020年5月16日 0時