【呪術廻戦】去り行くあなたに餞を。 (ページ4)

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「う、え、まじか……」

誰もいなくなった教室に、私の声だけが零れ落ちる。まさか他の教室もこうなっているのか。疑問に思って他の教室を回ってみても結果は同じだ。どこも人気はなく、春にはとても似つかわしくないほどがらんとしている。一体どうして、考えながら廊下を走る足がふと止まる。がしゃん、と大きな音が聞こえた。窓の外、階下の……そう、それこそ中庭の方向から。

「大丈夫ですか、っ」
「……なかなかしぶとい野郎じゃねえか」

慌てて窓ガラスに飛びつくと、真っ赤に染まる中庭に片膝をつく少女の姿があった。目の前には全く消耗した様子のない異形と、その影から姿を見せる男性。明らかに劣勢だとわかる彼女の様子に、心臓がどくりと嫌な音を立てる。足に力が入らなくなる。呼吸が速く、浅くなる。

私は今、考えてしまったのだ。彼女がこのまま倒れ伏してしまったら、と。

(それは、やだ)

そうだ、そんなのは嫌だ。私だってまだ死にたくない。何をやりたいというわけでもないが、死という苦しみはまだ味わいたくない。言わなきゃいけないことも伝えられていないし、聞きたいことだってまだ聞けていない。やりたいことなど何もないが、やらなきゃないことはたくさんある。

だから、まだこの少女に倒れられるわけにはいかないのだ。身勝手な理由で申し訳ないが、そんなことに構ってもいられないほどに状況が逼迫している。

少なくとも、私の目にはそう見える。

(……けど、このままじゃ駄目だよね)

明らかに不利なこの状況が変わらないなら、彼女が死に、私も見つけられてしまうのは時間の問題だろう。それを防ぎたいなら、何か別の要因が必要で、そして人が全くいない今、それができるのは私だけだ。

…できるのか、私に。一体何が。身体能力が高いわけでも、冷静に考えられるわけでもない。ひねくれていて、精神力も強いわけじゃなくて、存在感だって薄い、私に一体何ができると。

(案がない訳じゃない…………やりたくは、ないけど)

思い至ったそれは、私にとっては苦悶のもの。しかも上手くいく保証なんてどこにもない。彼女が何とかしてくれなかったらどうするのか。それよりもまず、私にそれができるのか。

けれど、そんな不安や懸念なんて、見ないふりをするしかないのだ。

「……っ、ねえ」

だってこれは、私が生き残るための唯一の手段なのだから。