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「え、そこからって、」
「目ぇ離すなよ!」


あなたは何処に行くの。
そう問いかける前に、彼女は開け放った窓から身を投げ出した。思わずぎょっとして窓に飛びつく。ここは4階、地面からは5メートル以上ある。こんな所から飛び降りて無事でいられる訳がない。



(駄目だって…………!死ぬ、)



咄嗟のことに目を瞑れず、少女の長髪が落ちていく様を凝視し続ける。人が死ぬのを見るのは初めてだな、そうどこか冷静に思ったとき。
とさ、と軽い音を立てて、少女は何もなかったかのように着地した。そしてすぐに異形の方に向き直り、どこからか取り出した刀を構える。



「………、えっ?」


重力を無視するかのように着地した彼女に、思わず目を擦る。けれど、何度目を瞬かせても、その姿も異形の姿も、消えることはなかった。

彼女は、人間離れした身体能力を見せつけるかのように中庭を走り回る。体が大きく動きが緩慢な異形の攻撃を、左右に飛び退いては交わしていく。低く踏み込んで右の脇腹に刀を突き刺した、かと思えばすぐに後ろに飛び退いて体勢を整える。直後、彼女がいた場所には巨大な拳が振り下ろされていた。


(すご…………漫画のバトルシーンみたい)


現実離れした現状に、そんな阿呆みたいな感想しか浮かばない。目の前で繰り広げられる応酬に、頭がショートしたのかもしれない。何にせよ、「見ていろ」と言われたからにはここで見ていなければなるまい。そう思って眼下の光景を見つめ続けること早数分。

違和感に気付いたのは偶々だった。
人の気配が無いのだ。廊下を挟んだ教室にいるはずの生徒の声や、これだけ騒いでいれば見回りに来るはずの教師の気配が。登校途中だったであろう上級生や作業があるかはわからない事務員はともかく、今日の式典に出席するはずの、つい数分前まで騒がしかった同級生たちが、ここまで静かになるのは明らかにおかしい。


(見とけって言われたけど、でも……っ)

何かが起きている、そんな確信をもって教室の扉を開ける。全員誰かに気絶させられているのかもしれない、拘束されているのかもしれない、あるいはもう、などという最悪の考えが脳裏を過る。血塗れの床を想像し、覚悟を決めて面を上げる。一体どんなに悲惨な現実が待っているのか、できることなら知りたくはないが。

しかし、その先に私が思っていた光景は何一つとして存在しなかった。


「あ、れ……」



いるはずの生徒たちは、まるで神隠しのように忽然と姿を消していた。

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作者名:砂漠のうさぎ。 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年9月1日 13時

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