第18話 峻峭 ページ9
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それは、雪も溶け始めた
とある春の日のこと。
「師範。少しよろしいですか」
「なんだ?」
「…………例の、士官学校への転入の件ですが…お断りしてもよろしいですか?」
女王に拾われてから、既に2年の月日が経っていた。
「何故だ?」
「………」
「………士官学校生の実力など、たかが知れている。雑魚の相手などしたくない。そんなところか?」
「……概ね、その通りです」
「…………アダム。わかっているだろう?軍に入れば、否応無く人と付き合わなければならない。
確かにお前の実力は群を抜いているが、それとこれとは別問題だ。
それに、他者と剣を交えることで、変わることもある。これも特訓だ」
「………はい」
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当時、若干15歳のアダム=ユーリエフは、
2年間、騎士団長であったジェニドから直々に剣術を仕込まれていた。
さらに、もともとスラムで培ってきた身体能力の高さ、強力な魔力にも恵まれ
既に同年代の者たちなど相手にもならないくらい、高い実力を有していたのだ。
しかし、問題は別のところにある。
部屋の扉が閉まりアダムの姿が消えると、ジェニドは深くため息をついた。
「…………あれで他人と関われるようになれば、
すぐにでも軍に入れてやれるんだがなぁ…」
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15歳は士官学校の卒業の年にあたる。
そこで良い成績を収めたものは、16歳から名だたる騎士の元へ弟子入りすることを許され
そして特に優秀な者は、騎士団長の元で、次期団長候補に名を連ねることが出来るのだ。
ジェニドはもちろん、イデアもまた
是非ともアダムを次期団長に据えたいと考えていた。
しかしアダムは何もかもがイレギュラーである。
実力は申し分ないとしても、次期団長候補まで上り詰めるためには
どうしても士官学校での好成績が必要不可欠。
アダムだけに不公平な真似は出来ない。
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猶予はあと一年。
………
次の日の朝、
士官学校最高学年の生徒の元に伝令が届いた
「は?この時期に転入?」
「嘘だろ…今更入ったって下級軍人がいいとこだろ」
「騎士団長様直々にスカウトされたって」
「本当か?」
皆が面白半分で会話する中
一人が、その張り出された伝令の前に立ち止まる。
「…………アダム=ユーリエフ…」
彼が初めて、その名を知った瞬間だった。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時