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それから何年もの月日が流れて、
マリアは女性だけの猟兵団“紅薔薇”を結成し、アミスターはその副団長となった。
ひさびさに彼と顔を合わせたのは、いつの頃だったか、木の葉が色づく季節だった気がする。
幕営の中、彼は唐突に姿を現し、紅薔薇の誰とも接触せずにマリアの元にやってきた。
本当ならそんな事はありえない。
しかし彼が普通の人間でないと理解していたアミスターには、関係のないことだ。
背は年相応に伸びていた。
右半身に生々しい痣ができていた。
髪は少し短くなっていた。
声も多少低くなっていた。
だが、一番変わっていたのは
瞳の色だった。
「何か目の病気でもしたの?」
そう問いかけるマリアに、彼は何一つの動揺もなく「違うよ」とだけ、軽く返した。それ以上は何も言わなかった。
彼は掻い摘んで近況報告をした後、笑って言った。
「あと2年したら、戻ってくるよ」
その微笑みだけは、昔と変わっていなかった。
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帰り際、
「アミスターさん、ですよね」
自分が声をかけられたことに一瞬アミスターは驚いたが、慌てて答えた。
「は、はい」
彼は、また微笑んで言う。
ああ、なんて素敵で
悲しい笑顔。
「姉さんのこと、よろしく頼みます」
その右耳に鈍く光るイヤーカフ。
輝きを失い、赤褐色になった瞳は、それでも見る者を惹きつける何かがあった。
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結局、2年経っても、彼は戻ってこなかった
裏切られた。そんな気がして、
彼がユランブルクに寝返ったのではと何度も思った
それでもようやく彼は、数年越しの答えを寄越したのだ。
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「全くあの子ったら……私があげた耳飾りにセルピエンテの力を宿してあの男に持たせるなんて、恩知らずにも程があるわね」
マリアは、紅茶を片手に苦笑いした。
「本当に、どこでユランブルクの犬なんかと知り合ったんだか。まぁそれだけ、あの子の医術の腕が確かって事ね」
「…………マリア様は、不安ではないのですか」
「何が?」
「…弟君が、ユランブルクに寝返り、二度と帰ってこないかもしれないとは…考えないのですか」
そう言うと、マリアはいつも真剣な目でこう返すのだ。
「あの子は、ちゃんと帰ってくるわ」
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私はまだ、彼の名を知らない。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時