外伝“ ε ” ページ48
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『無名』
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彼と出会ったのは、アミスターがまだ9歳だった頃だ。
陽光が照りつける夏のある日のこと。
「みてみてアミスター!!」
その日自分の主であるマリアが連れてきたのは、ふわふわの黒髪の幼子だった。
当時11歳だったマリアに手を引かれている彼は、ひどく覚束ない足取りで彼女の後をついてくる。
黒髪…というと、確か南の方に黒い髪の民族がいると聞いていたが…
「えっと…どなたでしょうか…?」
「いい?幼馴染のアミスターだから話すのよ?誰にも話しちゃダメだからね…!」
大きな赤い瞳を輝かせるマリアは、その子を抱き寄せる。
「この子はね…私の弟っ!」
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「……………ッはぁ!?」
「しっ!大きな声出さない!」
「あ…すいません、でも、え…?」
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マリアの弟、それはつまりレオンブルクの王族である事を意味する。しかし、マリアに弟がいるなんて話は聞いていなかったし、ましてや公の場で彼を目にしたことなんて一度も無かった。
「驚かせてごめんなさい、この子ね、おかあさまが外に出しちゃいけないって言うの。それにこの子がいるってことも、誰にも言っちゃいけないって」
「それ…私に言っちゃっていいんですか…?」
「何言ってるの、アミスターは特別だもの!」
マリアの腕に抱かれたその子は、まだ4歳かそこらに見える。長い前髪が顔を隠していて、徐に顔を覗き込もうとしゃがみこもうする。
次の瞬間、アミスターは震撼した。
前髪の隙間から覗く双眸が、あまりにも毒々しい輝きを放っていたから。
それは熟れたザクロのように、人を惹きつける甘美な赤をしていて、アミスターは、彼が普通の人間ではない事を瞬時に悟ったのだ。
しかしその時、強張った頰に小さな手が触れる。
驚き、目を見開くと、
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「とても、綺麗ですね」
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あまりにも美しいその微笑みは
アミスターの脳裏に強く焼き付いて離れなかった。
…どうしてあの時気づけなかったのだろう。
夏場なのに彼が長袖の服を着ていたこと
歳の割にやけに口調が大人びていたこと
そして何より、あの女王に匿われていたこと
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そこで気がついていれば、まだ、間に合ったかもしれないのに
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時