検索窓
今日:12 hit、昨日:16 hit、合計:14,329 hit

外伝“ ε ” ページ48

.





……………………




『無名』



……………………









彼と出会ったのは、アミスターがまだ9歳だった頃だ。


陽光が照りつける夏のある日のこと。








「みてみてアミスター!!」



その日自分の主であるマリアが連れてきたのは、ふわふわの黒髪の幼子だった。

当時11歳だったマリアに手を引かれている彼は、ひどく覚束ない足取りで彼女の後をついてくる。



黒髪…というと、確か南の方に黒い髪の民族がいると聞いていたが…








「えっと…どなたでしょうか…?」


「いい?幼馴染のアミスターだから話すのよ?誰にも話しちゃダメだからね…!」






大きな赤い瞳を輝かせるマリアは、その子を抱き寄せる。







「この子はね…私の弟っ!」







.







「……………ッはぁ!?」


「しっ!大きな声出さない!」


「あ…すいません、でも、え…?」







.








マリアの弟、それはつまりレオンブルクの王族である事を意味する。しかし、マリアに弟がいるなんて話は聞いていなかったし、ましてや公の場で彼を目にしたことなんて一度も無かった。







「驚かせてごめんなさい、この子ね、おかあさまが外に出しちゃいけないって言うの。それにこの子がいるってことも、誰にも言っちゃいけないって」


「それ…私に言っちゃっていいんですか…?」


「何言ってるの、アミスターは特別だもの!」








マリアの腕に抱かれたその子は、まだ4歳かそこらに見える。長い前髪が顔を隠していて、徐に顔を覗き込もうとしゃがみこもうする。






次の瞬間、アミスターは震撼した。

前髪の隙間から覗く双眸が、あまりにも毒々しい輝きを放っていたから。






それは熟れたザクロのように、人を惹きつける甘美な赤をしていて、アミスターは、彼が普通の人間ではない事を瞬時に悟ったのだ。






しかしその時、強張った頰に小さな手が触れる。

驚き、目を見開くと、







.







「とても、綺麗ですね」







.







あまりにも美しいその微笑みは

アミスターの脳裏に強く焼き付いて離れなかった。








…どうしてあの時気づけなかったのだろう。



夏場なのに彼が長袖の服を着ていたこと

歳の割にやけに口調が大人びていたこと



そして何より、あの女王に匿われていたこと






.






.







そこで気がついていれば、まだ、間に合ったかもしれないのに

.

・→←第28話 帰還



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 8.9/10 (20 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
49人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。