第28話 帰還 ページ47
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秋の陽光が港を照らし出した。
朝の涼やかな風が空気を輝かせる中、大きな帆船に大量の荷物が運び込まれていく。リョーフキーはその様を遠くから眺めていた。
「リョーフキー様」
振り返れば、そこには紅薔薇の副団長、アミスターが立っていた。
「マリア様の代理で参りました。お許しください」
深々と頭を下げる彼女にリョーフキーは苦笑する
「そんな…あの方が非常に多忙でいらっしゃる事は承知の上です。寧ろこうして貴方を代理に寄越してまで見送りに来てくださったのですから、許すも何もありません」
自分としては にこやかな笑顔で対応したつもりだったのだが、アミスターは途端に顔をしかめた。
「……………まるで、仮面を被っているようですね」
「…はい?」
「己の本心をひた隠しにしているような、そんな雰囲気があります。敬語も取ってつけたようで正直胡散臭いですし、そもそも貴方は団長のお慈悲があったから生きてここにいるようなものなんですよ。全く少しは団長のお気持ちや身分を考えていただきたいものd」
「あ…っと、すいません…何が言いたいんですか?」
出会って早々、急にまくし立てる彼女にリョーフキーは一瞬面喰らったが。
慌てて聞き返すとアミスターは唇を固く引き結び、こう言った。
「全ては、貴方のせいです」
リョーフキーには、その言葉の意味がわからなかった。自分はアダムほど強くはない。奇襲担当ではあるが、レオンブルクに対してそこまで言われるような事をした覚えはない。悲しい事だが、できた試しがない。
そのまま固まっていると、アミスターは独り言を言うように続けた。
「……………貴方は知る由も無いでしょうね。あの人が、どんなに辛い人生を歩んできたか…
王族に生まれたからと言って、順風満帆で幸せな道を歩んできたと思ったら大間違いです。
母を失い、弟も失い、宮廷の中でどんなに矢面に立たされても…
あの方は必死に歩み続けているのです。
己の大願を果たすために。
貴方は、どれだけ団長の邪魔をすれば気がすむんですか…」
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アミスターはそれきり、喋る事はなかった。
船の荷積みが終わり、いよいよ出発という時になっても、彼女は顔を上げなかった。
しかし、船が港から遠ざかる中、ほんの一瞬見えたのは、
宝石のような双眸から流れる涙だった。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時