・ ページ46
.
________今から17年前、王宮と、そして城下街をも巻き込んだ、レオンブルク史上最悪の事件が起きた。
王宮の内部から出火した炎は瞬く間に辺りに燃え広がり王宮の半分を焼き尽くした。時刻は深夜で、真っ暗な闇の中に炎が煌々と輝いていたという。
生き物のように唸りをあげる炎は、いつまで経っても治まらない。それどころか、度々起こる爆発が火の粉を街へと降らし、炎は城下街にまで飛び火したのだ。事態は悪化するばかりだった。
しかし、不幸中の幸いと言うべきか、王族達はその時まだ避暑地へ滞在しており、難を逃れた。
ただ一人。
「……………女王を除いては…」
.
彼女だけは、身体の不調を理由に城に残っていた。
それが仇となり、彼女は__________
.
…アダムは本を閉じる。
まさか敵国にこんな過去があろうとは。おまけにその犠牲となった女王は、あのマリア=S=レオンブルクの母親だという。通りで王子達とは容姿が違うわけだ。
異母兄弟。腹違いという奴なのだろう。
.
「あいつも…いろいろあったんだな」
アダムは目を細めた。己の過去が脳裏を掠める。
.
スラムに居た頃の記憶など、最早殆ど忘れかけていたのだが、己の母の事を想ったとき
じんわりと、胸が暖かくなった。
顔も、声も、13年も共に過ごしてきたのに、今は思い出せない。それでも、命を奪う異形の力を持つ自分を、身体が凍えるのも構わず優しく抱きしめてくれた。父親に殴られながらも、自分を守ってくれた。
ソーンを産んですぐに病に倒れ、あっという間に還らぬ人となってしまったけれど…
ベッドに潜り込んだアダムは、なんだかいつもと違って少し不思議な気分だった。
今日は変な日だ。
敵将に憐れみを感じたり、今更どうでもいいような母の事を思い出したり。
取り敢えず寝よう。
明日は朝から忙しいのだ。
早く、寝なければ。
……………________
.
吹雪が、叩きつけるように吹いている。
震える両手は、今しがた心臓に氷の刃を突き立てた男の返り血で染まっていた。
ざっ、と寒気が走るのと同時に、声がした。
.
『成る程、お前が新たな主か。
期待しているぞ。アダム=ユーリエフ』
.
自分は叫んだ。叫び続けた。
何一つわからないままに。
.
49人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時