埋み火 second【#コンパス】【男主】【アダム・ユーリエフ】 (ページ44)

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シークはそっ、と目を開けた。

先程まで目の前に迫っていた炎は跡形もなく消え、猛烈な熱気も肉の焦げた気色悪い匂いも夢だったのだと知る。

「…またか」

眠りにつけない身体を起こす。ホットコーヒーでも飲もうかと一階に降りたところで体内から堪え難い悪寒を感じて、キッチンの流しに吐いた。

赤黒い血が、あたりに散る。

そのまましばらく咳き込んで、シークは虚ろげにそれを眺めた。

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『随分と、無理をしているな』

頭の中に、何処かから声が響いた。

慣れているのか、今しがた血反吐を吐いたにも関わらずシークは心なしか苦笑している。

「そうだね。でも、いずれはこうなる運命だった。それはお前が一番よく知ってるだろう」

『確かに』

「…今日はどうしたの？」

『お前が彼に寄越した私の断片に、私の本体が接触したのだ。それでお前の中にいる私にまで影響が及んだ。だからお前は、またあの夢を見た』

「じゃあ、リョーフキーは生きてるんだね」

『私が私を殺すなどあり得ない。
それにしても、あまり身体を分断するのは気が進まんな』

「少なくともお前の断片は返ってくるから安心しろ」

『依り代に使ったあの耳飾りは？』

「あれはそのまま持たせるつもり」

『…ご苦労なことだ。だが、今お前に死なれては困る。必要とあらばお前の身体を乗っ取って2、3人魂を頂きに行くとするか』

「やれるもんならやってみろよ。その前に舌噛み切って自害してやる」

『………………全く、昔と変わらず、その意思の強さは折り紙付きだな』

「嫌味か？」

『いいや。

だからこそ、私はお前を選んだのだ。

魂を喰らわねば生きられない私の本能を以ってしても使役できなかったお前のその信念。それ故に私はお前と共にありたいと思えたのだから』

「ありがたいことだね」

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静寂が辺りを包んでいた。

「さ、それじゃあ作業の続きといきましょうかね～」

『今からか？』

「うん。ようやくこの国の全貌が見えてきたからね。やっぱり軍医になって正解だったよ。

虎穴に入らずんば虎子を得ず………やっぱり先人の教えは役に立つ」

シークは微笑む。

「お前にも存分に協力して貰うよ。セルピエンテ」

『……つくづく、不遜な奴だ』

その微笑の裏に、僅かな悲哀が滲んでいた。

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