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「………え?」
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死を覚悟し、自分の運の無さに心の中で嘲笑すら浮かべていたリョーフキーは、頭上から降ってきた間の抜けた彼女の声に思わず目を開けた。
見ると、あれだけの殺意を宿していた聖王剣セルピエンテが自分の額の前でピタリと静止している。
その名の通り、まるで生きた蛇のごとく、縦横無尽に敵を切り裂く、その剣が
空中に大きく弧を描いたまま、動かない。
まるで時間が止まってしまったように。
己の首筋を、冷や汗が一筋流れていった。
「………はぁ……セルピエンテ、戻って良いわよ」
しばらく経って、マリアの呆れたような声に従いセルピエンテは瞬く間にいつもの形状に戻る。
武器に話しかけるというのも可笑しな話ではあるが、その時のリョーフキーにはセルピエンテに本物の命が宿っているように見えた。
「…………殺さないんですか?」
リョーフキーが訝しげに尋ねると、
「…私は貴方を殺せない。少なくとも今はね。」
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あまりの展開の早さに、頭がついていかない。
さっきまで敵意むき出しだったくせに、セルピエンテが突然静止したと見るや、剣を引っ込めて今度は「殺せない」だなんだのと言い始めた。
……意味がわからない。
「…殺せない…って、貴方さっきまで殺す気満々だったじゃないですか」
「セルピエンテが貴方を切ることを拒んだ。
………それだけのこと」
「…武器に意志が宿るとでも?」
「…さぁ…どうかしら?敵国の人間に話す義務はないわよ」
「ッ………つくづく気に触りますね、貴女の言動は」
「そりゃどうも。でも良かったわ。私も知恵者を斬るのはあまり気が進まないの。セルピエンテが止まってくれて逆に嬉しいくらい」
「………は?」
夕焼けに赤く染まる空を背景に、マリアのたおやかな赤髪が煌めく。
「初めはどんな優男かと思ったけど……芯が強くて努力家で、真面目で明るくて優しくて、でもここぞという時には物事を冷静に合理的に判断出来る。
貴方が女だったら、間違いなく紅薔薇に引き抜くのに…残念だわ」
真っ赤な口紅が弧を描き、彼女は僅かに目を細めて微笑んだ。
リョーフキーは思わず見蕩れてしまった。
直感する。
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マリア=S=レオンブルクは
間違いなく
人の上に立つに相応しい人間だと。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時