埋み火 second【#コンパス】【男主】【アダム・ユーリエフ】 (ページ5)

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……

目を覚ます。いや、

『覚めた』という表現では、多少語弊があるだろうか。

なぜなら、自分の中では僅か数十秒の、いつもより少し長い瞬き程度のものに過ぎなかったのだから。

辺りは薄暗い。

ここはどこだ。

頭がぼんやりとして、何か考えようとしても、それらははらはらと指の間から零れていく。

頭に真っ白な靄がかかったような。その中にじっと佇んでいるような…そんな気がしていた

しかし、突如、身体に電流が走り、靄は一瞬にして消し飛ぶ。

零れ落ちた記憶が体を成し、鮮烈な情景となって蘇る。

まるで、緩やかに流れていた水が、冷たく美しい氷塊へと変化するように。

だが、自分はそれを心の何処かで拒んでいたのだ。

そうか、だから。

だから…

……………

目が『覚めて』、

一番はじめに飛び込んできたのは、誰かの声だった

「リョーフキー！！おい！しっかりしろ！」

すっかり意識は覚醒しきっているのに、
体は全く言うことを聞かない。

その瞼すら、まともに開くこともできなかった。

だが、思い出した。

「………シーク…か…」

「そう！シーク！正解ッ！！
はぁ～良かったぁ……全くどんだけ心配させるつもりなんだこの唐変木！」

………そっと、目を開ける

.

そこには、顔いっぱいに笑みを浮かべた友の姿。

そうか…自分は助けられてしまったのか。

「え、ちょっとリョーフキー？なんで泣いてんの？どっか痛い？ちょっと待って、今確認するから、動かn」

.

「………五月蝿い」

.

.

「…え」

.

「…………黙れよ。シーク」

.

いつもの艶やかな深緑の瞳は見る影もなく、

深い、悲しみと絶望に、淀み沈んでいた

そうして何を語るでもなく、目は閉じられる。

.

その一部始終をシークは茫然と見守っていた。

差し伸べた手は行き場を無くし、

彼はゆっくり、それを膝に戻す。

.

…雪は、止んでいた。

明るく煌々と差し込む光。満月が天頂を渡る。

やがて穏やかな寝息が聞こえ始めた。

扉の閉まる音がした。

そうして部屋には、男が一人。

静かに横たわるのみとなった。

.