第26話 舌戦 ページ39
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………
滞在二週間目。まだ、自分は殺されていない。
長い長い船旅の末、ようやくたどり着いたというのに。レオンブルク西岸付近にあるこの西離宮という場所に缶詰にされてから、一歩も外に出られていない。
それどころか、連れてきた部下や外交官とまで隔離され、今現在城の最奥の離れに軟禁されている。
食事を運びに来る者は、話を聞く前にそそくさと退散してしまうため、取りつく島もない。
自分は一体、何をしに来たのだろうか。
遠い敵国まで来て、こんな場所でただ暇を持て余すなんて。
今頃、アダム達はどうしているだろう。
シークはもしかしたら病人の世話で駆けずり回っているかもしれない。
“自分は見捨てられたのではないか”
ふと、そんな考えが頭をよぎる。
しかしリョーフキーはそれを払いのけるように、大きく深呼吸をした。
そうだ。ここに来る前に、アダムとあれだけ話したじゃないか。例え国が俺を見捨てても、アダムとシークは俺のことを見捨てない。今なら自信を持ってそう言える。
と、その時。部屋にノックが響いた。
「リョーフキー様、マリア様がお呼びです」
…遂に来たか、とリョーフキーは固唾を飲んだ。
マリア=S=レオンブルクは、例え敵国の使者であろうと危険とわかればすぐ殺しにかかってくるだろう。
そこを如何に切り抜け、如何に逃げおおせるか。今はそれだけ考えればいい。国の案件なんてものは後回しだ。
席を立つリョーフキーの右耳には、鈍い銀のイヤーカフが煌めいていた。
……………
予想に反し、扉を開けると、そこにはマリアただ1人。
部屋もさほど広くはない。本棚には所狭しと本が並べられ、マリアがこちらを見つめる後ろには、仕事用のものだろうか、大きな机が据えられていた。
天井の小さいシャンデリアが部屋を仄かに照らしている。
「いらっしゃい、よく来たわね翠光騎士リョーフキー。そこへ、座ってちょうだい」
促されるまま、小ぶりな丸テーブルの席に着く。
マリアと、真正面から対峙する。
今自分は、戦場でアダムが目にするよりも、敵将と近い距離にある。
殺そうと思えば容易に殺せる距離。
ここに来て、リョーフキーは彼の言葉を思い出した。
“楽しんでこいよ”
ああ、まったく、その通りだ。
リョーフキーは口角を釣り上げる。
こんな時こそ楽しまなくては、逆に損だ。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時