埋み火 second【#コンパス】【男主】【アダム・ユーリエフ】 (ページ36)

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木々の擦れる音だけが響く空間の中で、ソーンは迷っていた。

自分の兄がこの場を去りたい気持ちは痛いほどわかる。何故なら兄は、イデアに異常なほど心酔しているにも関わらず、シークのことを誰よりも信頼しているからだ。

驚くのも無理はない。

それにこう言っては悪いが、自分の兄が僅かばかり“冷静に考える”事を苦手としていることも、ソーンは良くわかっていた。

と、

「それで、さっきは2人とも何話してたの？随分しかめっ面して座り込んでたけど」

思考を巡らせていたところをシークの呼び声が遮り、ソーンは思わず一瞬狼狽える。

「えっと……その…」

すると、今までいつもと変わらず優しげな目をしていたシークが、つかつかとソーンの前に歩み寄り、そして。

「もう、気づいているんでしょう？俺が、ユランブルクの人間ではないということに」

その眼光は、射抜くようにソーンを視線を捉えて離さなかった。

ソーンの背中に悪寒が走る。

くすんだその瞳には内に密かな輝きがあった。今までどうして気がつかなかったのだろう。この優美な美しさに。鮮烈な赤が其処にはあった。

そして自分でもわからないが、ソーンは喉から手が出るほど、その輝きを欲していた。

しかし、その感情はほんの一瞬で、シークはすぐにソーンから目を逸らし、いつもの朗らかな微笑に戻ってしまった。

「それで、どうなんです？」

再び問いかけられ、ソーンは確信した。

彼は自分に正体を気付かせるために、わざとあんな本を渡したのだと。そこまでいって、ソーンは重苦しい感情を押し退け、口を開いた。

「単刀直入に聞きます。先生は、レオンブルクの密偵ですか？」

「違うよ」

答えは、いとも簡単に返ってくる。ソーンはそれに少しだけ安堵した。

「で…では、どんな経緯でユランブルクに？ご家族の中に血縁の者がいたのですか？」

「俺の本当の両親はレオンブルクの人だよ。だから血縁だけで言えば俺は純レオンブルク人。でも俺は捨てられちゃったからね…家族に。

………故郷に居られなくなって、それでこっちに逃げてきたってわけ。」

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「え…………捨てられたって…それはつまり」

「そのままの意味だよ。
…………俺は家族に捨てられたんだ。」

…………虚空を見つめながら、遠い昔を懐かしむように語るシークの横顔には、

寂しさや苦しさが滲んでいた。

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