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「実はですね…最近、レオンブルクの事について調べていて…」
「ああ…それでシークがあんなに沢山の本を運んでたんだな」
「はい。それで…その中に、興味深い内容が書いてあったんです。
兄様、シーク先生の髪色って…この辺りでは随分、珍しいと思いませんか?」
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…………風が梢を揺らし、深緑の葉が一枚ひらりと落ちた。
「ユランブルクもレオンブルクも、1つの国として統一されてはいますが、その中にも勿論、多数の民族が存在しています。ユランブルクの場合は、殆どが僕や兄様、陛下のような金や銀の髪色なのですが……」
ソーンは一呼吸置き、言った。
「黒髪を持った民族は、レオンブルクにしか存在していないんです。しかも、レオンブルクの王都よりさらに南。非常に限られた地域で生活している…」
「…それは、つまり……」
「…………シーク先生が、レオンブルクの血筋であることは、間違いないかと」
ここは暖かいはずなのに、まるで外の吹雪が吹き込んでいるように感じられた。両手を握りしめて下唇を噛みしめるソーン。恐らく、ずっと悩んでいたのたろう。
アダムは何も言わなかった。
しかし、考えていた。
今まで自分は、敵国の事など知ろうともしなかった。それはユランブルクの国民も同様だ。ユランブルクの国民はレオンブルクを蔑む一方、向こうの風土や民族性についてはとんと興味がない。だからこそ、誰もシークに疑問を持たなかったのだろう。
しかし、ソーンにこの本を渡したのは他ならぬシーク自身。自分の命の危険に関わるような情報をわざわざ他人に開示するだろうか。
ソーンの知的好奇心や記憶力の良さは、彼も承知の上だろう。それなら本を渡した時点で、自分の正体に勘づかれる事だって、容易に想像出来たはずだ。
ならば、どうして______________
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「何話してんの?」
「「えッ、うわあぁっ!!!」」
気がつけば目の前には先程話題に上がった人物。
「シーク…いつの間に…」
「ついさっきだよ。あと、はいソーン。これ新しい塗り薬」
顔色から伺うに、気づいては居ないようだが
「…すまない、もう行かなくては」
アダムはシークと目を合わせず立ち上がる。
「あ、おいアダム。腕気をつけろよ」
「…問題ない、どうせすぐ治る」
「どうだか」
足早にその場を去るその背中を、シークは静かに見送っていた。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時