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「なぁ、シーク」
「ん?何?」
「お前……何か嫌なことでもあったのか?」
躊躇いがちに問いかけた。
「…………え…急にどうしたの」
「いや、その…なんというか
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笑ってない…から」
「………笑ってない?」
小首を傾げるシークに、アダムは俯きがちに言った。
「…………シークは挨拶する時、いつも笑っていただろう。当たり前すぎて慣れてしまっていたんだが、今日は少し違和感があった。だから、何かあったのかと、思って…」
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シークはその言葉に、一瞬目を見開いたようだった。
アダムらしからぬ、と言っては失礼だが。
感情に乏しく、他人に興味がなく、相手の心情や細かい変化など全く気にも留めない。それがアダムだ。アダム“だった”のだ。だからこそ、敵に対して誰よりも無慈悲でいられた。周りの人間もそれを認め、受け入れていた。
しかし、
「お前…変わったな」
アダムは確実に変わってきていた。
もちろん、リョーフキーも。
「変わった…?」
「うん。表情が柔らかくなった。あと声音も。」
「あまり自覚は無いんだが…」
「……………まぁ、どっちにしろ、お前が心配するようなことは何にも起こってないから、安心しなよ」
「…そうか。でも、何かあればすぐに言えよ」
と、不意に
「!」
シークがアダムに手を伸ばし、そのふわりとした銀の髪を撫でた。
「シーク……急にどうしたんだ」
「別に〜?ちょっと可愛いなって思っただけ」
「氷漬けにして海に沈めるぞ」←
「氷の密度は水より小さいから沈められませ〜ん」
「み…みつど?」
「後でソーンに聞けばわかるよ」
そう言って、彼は笑う。そして器用にバランスを取ると、小さな体躯には不釣り合いなくらいの大量の本を再び両手で持ち直した。
「………シーク、半分持つか?」
「え、いいの?」
「ソーンのところに持って行くんだろう?」
「おー助かる!ありがとな!」
「大事な弟のためだ」
「ほぉ…大切な家族がいるなんて、アダムは幸せだねぇ…俺は大分前に親父が病気で亡くなっちゃったから、それから寂しく独り身生活だ」
「…そうなのか…俺は……あまり覚えていないな」
小さく吐露したアダムを見て、シークの表情が陰る。
「俺には…ソーンと陛下が生きていてくれれば、それでいい」
アダムの表情はいつになく明るい微笑みに満ちていた。
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ノズル - コメントしてくれても…ええんやで(定期) (2018年12月2日 17時) (レス) id: 29d62f5c94 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 復帰しました (2018年8月13日 9時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - 本作でもよろしくお願いします。 (2018年7月24日 6時) (レス) id: da0e8a2348 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノズル | 作成日時:2018年7月15日 14時