埋み火 second【#コンパス】【男主】【アダム・ユーリエフ】 (ページ3)

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第16話新生活ページ3

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某月某日

町外れの小さな“元”診療所にて

鏡の前に佇む1人の青年がいた。

「…うん、これでよしっと」

うねる癖っ毛を無理矢理に撫で付けると、彼は何かを思い出したのかぱたぱたと二階に駆けてゆく

一番奥の部屋の扉を開けた

「いってくるよ、リョーフキー」

寝台に横たわる人物に、そっと微笑むと

シークはおおきなカバンをひっ掴み、
降りしきる雪の中へと飛び出した

今期分のレオンブルクとの大戦も終え、
近衛騎士団が帰還してきてから早2ヶ月。

本当なら、まだまだ真冬には程遠い、木々も色づく秋の季節

今日は例年より、いくらか早い初雪となった

…………

「それで…リョーフキーさんの具合は…」

「うーん、まだ目覚めそうにないですね
一応魔法で生体機能だけは停止しないようしているので、死にはしないでしょうが」

王城の一角、ガラス張りの建物の中には色とりどりの草花が咲き乱れている

「でも、本当に驚きました。兄様から話は聞いていましたがまさかシークさ…じゃなくて、先生が僕たちの命の恩人だったなんて」

「………別に呼び方はなんでも構いませんけど？」

「いいえ！僕の体調管理に加え、語学まで教えて下さっているんです！ぜひ！ぜひ先生と呼ばせてください！」

「…………gravere」

「す、すいません！」

「本当にソーンの知識吸収速度は理解不能だわ」

その小さな肩をゆっくりとほぐしながら、シークはひとり思考を巡らせる

昔読んだ医術書によれば、昏睡状態に陥った患者は、その状態が1週間以上続くと死亡率が著しく高くなるのだという

まぁ、栄養も水分も一切摂取させていないのだし餓死と同意と捉えて相違ない

だから自分は、リョーフキーの体の機能が停止しないよう、その体を動かすのに必要なエネルギーを

自分が分け与えるという方法を選んだ

幸い傷は完治させることが出来たためあとはリョーフキーの意識さえ戻れば、問題ない。

しかし

未だ彼は、例の大戦から

一度たりとも

目を覚ましていない

「……」

「……先生…どうかしたのですか？」

「…いえ、特には」

シークには、その状況が

ひどく不可解なものに思えて仕方なかった

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