埋み火 second【#コンパス】【男主】【アダム・ユーリエフ】 (ページ13)

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1人食堂から自室へと向かっていると、

物陰から話し声が聞こえた。

(師範……？)

見れば、己の師であるジェニドが、廊下に等間隔で並ぶ淡い炎に照らされて立っている。

どうやら何者かと話しているようだった。

一瞬、すぐにその場を離れなくてはと思ったが

直後

そんな思考はどこかへと消え失せた

「はぁ…全く、本当にわからないな。何故貴方のようなお人が、うちのリョーフキーに目をかけるのか。

あんな木偶の坊…

甲斐甲斐しく世話をしたところで、大した騎士にはなりませんよ」

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…足が止まる。聞いてはいけないと思いつつも、生まれつき聴覚の鋭い耳は鮮明に言葉を拾ってしまった。

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「彼には、類まれな才能があるのです。今はまだ表に出てはいませんが、ぜひ、私の手で育てたいのです」

「はぁ…騎士団長様…そう言っていただけるのは、誠に有難いことではありますが…」

「お願いします。どうか私に、猶予を与えてはくださいませんか。経済的に困窮しているわけでもないのですから」

「……………たしかに、貴方が息子の士官学校での授業料や教材の面を工面して頂いている分、そちらの心配はありませんが………………

やはり、どうして貴方がそこまでするのか。私共には図りかねますな。

ま、こちらもあいつには対して興味はありませんし。お好きなようになさってください」

「ありがとうございます」

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………2人の足音が遠ざかっていく。

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やがてその場は静寂に包まれたが

足は依然として、動くことはなかった。

先ほどのジェニドと男の会話を聞いてから、言い知れぬ“ 黒くてざらついた何か不快なもの ”が

胸の内にこびりついて離れない。

同時に、刻み付けられた“リョーフキー”という名前。

一抹の疑惑が、一瞬アダムの頭をよぎる。

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空には半分に欠けた月が

朧げに漂っているばかりであった。

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