第13話 当惑 ページ31
.
…………
辺り一面を、炎が埋め尽くす
.
覚えているのは、母と
遠くで響く、誰かの声だけ。
.
自分は泣いていた。
.
何故、泣いていたのかは
わからなかった。
.
…………
うたた寝から、突如として、
冷水を浴びせかけられたかの如く
シークは驚懼のうちに目を覚ます。
何か、夢を見ていたような気がするが
状況を理解するよりも先に、割れるような頭痛と息苦しさが襲った
堪らず、ベッドから這い出て
視界の端に映った金ダライに、喉の支えを吐き出す
.
…血だ。
.
赤黒く、ぬらりと光るそれを 呆然と見つめて
ようやく、彼は思い出した。
………
.
たまたま、高山に生える薬草を取りに行って 立ち寄った村。
自分はそこで、これまた たまたま、偶然にも出産に立ち会うことになった。
仕事は思いのほか長引き、陣痛から出産までの三日間
自分は、つきっきりで看病をしていたのだ。
.
それもなんとか無事に終わり
さぁそろそろ帰ろうか、と支度をしていた矢先の事だった。
「大変だ！！国軍が攻めてkぎゃあああああああああああああッッ…！！」
…屋外から 悲鳴にも似た断末魔が響く
そこからは、一瞬だった。
.
.
瞬く間に、村は恐怖の波に飲まれた
身に覚えのある冷気に、背筋が凍る
“誰”かなど、敢えて確認するまでもない
こんな強大な魔力を扱える人間など、
他に知らない。
.
自分は真っ直ぐに、先程の赤子と母の元へと走った
だが、氷は恐ろしい速さで村を飲み込んでいく。
.
だから
結局のところ、自分には
氷に飲み込まれんとする母と赤子に
懸命に走り寄ろうとする兄妹を引き止め
ひたすらに逃げるだけで
精一杯だった。
.
泣いていたと思う。
そうだ、そうして、ここまで来て
自分は精魂ともに尽き果て、絶望のうちに意識を手放したのだった。
.
(だけど……)
…シークは辺りを見渡す。
記憶の限りでは、レオンブルク領までは逃げて来たはず…なのだが…
「……………ここ……どこ？」
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 56人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
無気力人間A(プロフ) - コメ失礼します！この小説、読んでて面白いし入り込めるのでとても好きです。文と文の間も狭すぎず広すぎずちょうどいいので見やすいです！まだ1しか読んでないので4まで読んだらまたコメさせていただきます！ (2019年11月18日 15時) (
レス) id: 59ffb7dac7 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - コメントありがとうございます！自分も今まで挑戦したことのない文体で、かなり困惑しながら書いている場面も多いので、面白いと思っていただけて幸いです…！ (2018年6月27日 7時) (レス) id: 4c1514854c (このIDを非表示/違反報告)
N;Re(プロフ) - なかなか無い形態で面白いです。更新応援しています。 (2018年6月26日 22時) (レス) id: 84a3c96542 (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - コメントしてくれても…いいんですよ（定期） (2018年6月26日 20時) (レス) id: 4c1514854c (このIDを非表示/違反報告)
ノズル - レオンブルク聖帝国を聖王国に改変しました。 (2018年6月17日 12時) (レス) id: 4c1514854c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ノズル | 作成日時：2018年4月7日 9時
