． ページ28
傘をふたつと荷物を引っ提げながら街をひた走る。ダイアゴン横丁のどこかの店に行ったとは考えられない。「姿現し」であちこち飛んで、シフォンスカートがふわりと膨れる度、足元に雨がかかる。あらかた予想出来るところは探し終わったけど、それでもジョージは見当たらない。ため息をついて、また回る。──もうあそこしかない。出来れば、年に一回しか訪れたくなかったけれど。
＿＿
「──朝から飛び出してきたの？」
「ん」
「そっか」
人気のない墓地にひとり佇んでいたジョージの声はくぐもっていた。墓石には容赦なく雨が打ちつけられ、元の色をすっかり失っていた。
「誕生日おめでとう、二人とも」
花を手向けてから、そう呟いた。時間は容赦なく流れる。その流れについていけない者たちをも巻き込んで。ジョージも私も歳を重ねていくけど、フレッドだけは時間の外側にいて、置いていかれてる。歳を重ねないことを分かっていても、祝いたくなる。ジョージはそのことには何も触れず、少ししてから口を開いた。言葉の頭が掠れている。
「……帰るの怖いんだよ、フレッドと顔合わせるの、最近……」
言葉尻が途切れていく。言いたいことはそれだけで分かった。朝から雨の街に意気揚々と出かけていくフレッド二世の姿を朝に見かけたが、その後ろ姿は本当にフレッドそっくりだった。6歳の春の日差し、匂い、澄んだ空気の味、それすらも鮮明に思い出された。本当はそこにいたいのだけれど、仕方ないから、雨の中に戻る。
「じゃあ、一旦私の家に寄ってから帰ろうか。アンジェリーナはまだ支度してるだろうから」
何も言わずにいじけたような顔で頷くジョージの姿は、やっぱり幼い頃と瓜二つで、私たちいつまでも立ち止まったままなんだと気が付いた。最初からジョージがこうなっていたことは何となくわかっていたので、着替えもタオルも持ってきたわけだ。「姿現し」で私の家の近くまで移動する。そこからは傘をさして二人で歩き始めた。俯きがちなジョージの背中には、模様でも描くみたいにまあるく濡れていた。
＿＿
シャワーを浴びて、着替えてきたジョージの頭を新品のタオルでわしゃわしゃ拭く。以前は、二つの赤毛が並んでいたのに、もう並ぶことはない。
「前にもこんなことあっ──」
「あれ、なに」
シングルベッドの横に置いてあるチェストの上に置いてある、伏せられた写真立て。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
狸ノ木(プロフ) - そると。さん» コメントありがとうございます！ 私も結構気に入っている話なのでそう言っていただきとっても嬉しいです……！ たぶんころっと落ちちゃいますね☺️(そんな機会があればですが！) (2022年4月5日 17時) (
レス) @page37 id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
そると。(プロフ) - 最後のジニーのお話...めっちゃ好きです...あんな言われたら落ちるしかなくない...？？？ (2022年4月5日 1時) (レス) @page36 id: 49e4342c2d (このIDを非表示/違反報告)
狸ノ木(プロフ) - 弁当にトマト入れないでさん» コメントありがとうございます〜！！こんなに素敵な言葉を頂いてもいいんでしょうか……すごく励みになります😭してみたされてみた、また書きたいので出すと思います！ 楽しみにしてて下さい💞 (2022年2月15日 7時) (レス) id: 7569f5552e (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマト入れないで - してみたされてみたまた出して欲しいです！無理だったらすいません!!お話作るの天才すぎ!!めっちゃいいお話だらけ! (2022年2月14日 22時) (レス) id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
弁当にトマトを入れないで - 私もパーシーと、オリバー大好きだから主さんのお話大好きです！ (2022年2月14日 22時) (レス) @page16 id: 2bfe3fce26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
