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「ごめん、食べきれないや。」
「わかった。無理しないで。ラップしておくから、食べたい時は言いなさいね。」
「……ごめんなさい。」
食事がどうしても喉を通らない。気持ちが悪い。リハビリの日はこうなってしまいがちだった。いつになったらよくなるのだろう。食べられないから筋肉が増えない。だから上手くいかない。わかっていても食べられないのだ。
北斗くんは私が残したご飯に丁寧にラップをかけた。北斗くんは私が食べきれなくても怒らない。せっかく作ってくれているのに。ガッカリした顔をしない。残されて不愉快だろうに。
「早く歩けるようになりたいな。」
冷蔵庫にご飯をしまう北斗くんの背中を見ながらぼそっと呟いた。ピクリと、一瞬だけ動きが止まった。なんて声をかけようか迷っているような動きだった。
「そうしたら、北斗くんに迷惑をかけないで1人でも出かけ」
「ダメだよ。」
私の声に被せるように北斗くんが言った瞬間、ガチャンと大きな音がした。北斗くんの足元を見ると、平皿が割れてご飯が散らばっていた。
「ほく…」
「ダメだよ。1人では出かけさせられない。」
「でも、北斗くんが1人でいられるような時間が…。」
「そんなのいいから。Aは気にしないで。」
「それに、樹くんたちと出かける時だってなくなってる。そんなのって…。」
「だから。気にしなくていいって言ってるじゃない。大丈夫なんだから。」
不健全だ、と私が言おうとするのを遮られる。北斗くんはしゃがみこんで、散らばった平皿の破片やご飯をかき集め始めた。手も背中も震えている。私はしゃがんでしまうと1人では立ち上がれないから、椅子に座ってただその背中を見ていた。情けなかった。
きっと、トラウマを与えてしまった。あの事故を、私を1人で行かせてしまったせいだと思っている。私の存在が北斗くんを苦しめている。真綿で首を絞めるように、じわじわと。
割れてしまった平皿は、同棲を始めたときに初めて買ったものだった。深いブルーの花の型を押されたやつ。あのときはもっと笑顔で溢れていて、幸福だった。
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作者名：睡蓮 | 作成日時：2023年5月30日 1時
