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リハビリは辛い。昏睡状態だったせいで質量が減り収縮した筋肉を戻すためにやっているが、すっかり何もなくなった手足で重りを持ち上げるのは辛いし、なかなか長時間歩けるところまで回復しなくてイライラする。担当医は時間がかかるのは承知の上なのでじっくりゆっくり焦らずに、というが、私が戻ってからめっきり外出が減ってしまった北斗くんのためにも早く1人で出歩けるようになりたい。
今まで出来ていたことが全く出来なくなることは、精神的にも体力的にも参ってしまう。帰り道、今日のリハビリを反芻して息が苦しくなる。無理をすればするほど体は動かなくなるし、リハビリも無意味なものになる。わかっていても、北斗くんが押してくれる車椅子に乗りながら叫びたくなる。大丈夫？と声をかけてくれる北斗くんに当たり散らしそうになる。
「お疲れ様。どうだった？」
「上手くはいかないよね。」
車椅子を押してくれている北斗くんに、努めて冷静に、声が震えないように微笑を混ぜて返した。
「時間はかかるだろうけど、前よりずっと歩けるようになってるよ。」
「目が覚めた時に比べればね。」
思ったよりも刺すような冷たい声が出た。後ろからハッと息を飲む音が聞こえる。しまった。北斗くんは繊細で私の心の動きを感じ取りすぎてしまうところがあるから、気をつけなくちゃいけないのに。ただでさえ迷惑をかけているのだから、私の言動で傷つけることは避けたい。
「ほら、やっぱり早く長い時間デートがしたいの。」
慌てて言うと、取ってつけたようになって悲しくなった。本当に思っていることなのに。リハビリの後は心の振れ幅が大きくなる。いつもなら気にならないことや気にしないでいられることに突っかかってしまう。冷静で穏やかでいることが私の美徳なのに、それすらも奪っていくから嫌になる。
「…そうだね。」
ほら、また困らせた。北斗くんの顔は振り返らないと見えないけれど、声色からそれが十分にわかる。きっと眉を少し下げている。本当に自分がダメで嫌になる。
汗がこめかみのあたりをすべっていく。私たちをジリジリと照らす太陽は鬱陶しいほどに眩しく、目の前がチカチカする。吹く風もじっとりと水を含んでいてむしろ熱いほどだし、噴き出した汗は一向に乾く様子がない。前は綺麗だと眺めていた、街路樹の青々とした葉が反射する光も今は嫌なものに見えた。
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作者名：睡蓮 | 作成日時：2023年5月30日 1時
