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樹くんは、私が退院してから定期的に遊びに来るようになった。時々、慎太郎くんたちを連れて。多分ずっと2人で過ごしている私たち、主に北斗くんのことを心配してくれているのだと思う。
「調子は?」
「わりと良いよ。北斗くん、すごく良くしてくれてるから。」
「へー、やるじゃん北斗。」
樹くんがキッチンでお茶を注ぐ北斗くんに向かって、少し大きな声で言った。北斗くんは負けないぐらいの声量でうるせぇと返す。この2人のやり取りはコントみたいで見てて面白い。
「リハビリは?なんか前より姿勢とかよくなってるから順調なんだべ?」
「うーん、順調と言えば順調かもしれない。でもやっぱり早く自分だけで動きたいから焦るし、まだまだ足りなくてもどかしくて悔しい。」
「甘えちゃえばいいやって思わねーのすげぇな。」
「十分甘えちゃってるから…。少しでも負担にならないようにしたいよ。」
コト、と私たちの目の前にお茶が置かれた。
「ありがとう。」
「いーえ。樹、俺スーパー行ってくるから。Aに変なことするなよ。」
「はいよ。するわけねぇだろ!ちょっとは信頼しろ、俺を!」
「ごめんね、北斗くん。ありがとう。」
「変なことされないよう気をつけてね。」
「だからしねぇって!」
北斗くんはエコバッグを持って部屋から出ていった。私が気に入って買ったピンクの小花柄のやつだ。北斗くんが持ってると少しだけチグハグだ。生活感の無いイケメンが、妙に現実的な可愛いエコバッグを持ってスーパーにいるのを想像すると面白かった。
「なんかアイツ主婦みてぇだな。」
「そうね、申し訳ないと思ってる。」
「なんでぇ?」
「だってもっと遊びたいはずだもん。海でBBQとか。……あんまり北斗くんっぽくないけど。」
「意外と好きそうだけどやってるところは全く想像できねぇ。面白いかも。」
樹くんはお茶を飲みながら目を細めた。樹くんがたまにする、大事な友達を思い浮かべているときの目だ。北斗くんとは別の優しさを持っていて、そんな樹くんが北斗くんを陽のあたる場所に連れて行ってくれたらと思った。
「だからね、連れて行ってあげて欲しいの。海でも山でも、BBQでもなんでも。」
「BBQだと1日かかっちゃいそうだけどAちゃんは大丈夫?体力持つ?」
私がううん、と首を振ると樹くんは怪訝そうな顔をした。現実的に考えて、私がお出かけするのなんて夢のまた夢なんだから。
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時