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階段を下りることは出来ても、上ることはまだ難しいので北斗くんに支えてもらいながら上る。1歩ずつ。家の中に入ると、たった2日間離れていただけなのにすごく懐かしい気がした。私たちが生活している匂いがする。
「あのさ。今からすごく嫌なことを言うし、幻滅されるかもしれない。」
「幻滅なんかしない。大丈夫。」
ソファーに腰を下ろすと、北斗くんは緊張した顔で言った。きっと大事なことなのでちゃんと聞きたくて、体をねじって北斗くんの方に向ける。
「俺ね、Aの体が治るのが怖かった。もちろん、ひとりで出かけられるのが怖かったのもあるんだけども……なにより、俺から離れていきそうで。」
北斗くんは、じっと見つめてくる。真っ黒な瞳で。
「治らなければ、2人でずっと一緒にいられる、なんて……。
こんなの、Aの気持ちを信用してないってことだったんだなって思うよ。
本当にたかが海行ったぐらいでなんだけどね、それぐらいでって感じではあると思うんだけどさ、こう……海って波とかで絶えず形は変わり続けるじゃない?でも、そこにあるのは依然として変わらなくて。なんか、なんとなく、俺らがそうなれるならいいと思ったんだよ。お互いの愛情があるって言うのは変わらずに、でもその形は変わっていく、みたいな。」
「うん。……プロポーズみたい。」
「……そうだねプロポーズみたいなもんだね。」
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作者名:睡蓮 | 作成日時:2023年5月30日 1時