客観的幸福論 (ページ20)

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　久々の実家は私が住んでいた頃と何も変わらないような、それでいて何かが変わったような感じがした。裸足で踏むフローリングの感覚も、私の部屋の本棚に並ぶ本も、リビングのテレビのリモコンの位置すら変わっていないというのに。忘れていたわけでもない北斗くんと出会う前の記憶が、うねりのように襲いかかってくる。

　私がただ眠っていた半年間、私は存在しなかったようなものなのに、確かに時間は過ぎていた。カレンダーの日付を見てぎょっとしたり、病院の中庭に咲く紫陽花を見たりしてわかっていたはずではあったが、ここに帰ってきて初めてそれを実感した気がした。タイムトリップしたみたいで不思議だった。

　リビングの大きな窓からは庭が見える。ソファーの背もたれに肘をついて眺めた。ブルーベリーの木にはすずなりに小ぶりな実がなっている。子供の頃、毎年大事に収穫して食べていた。実が甘い年ほど野鳥にとられてしまって、満足に口に入らなくて泣いていたことを思い出し、懐かしくて涙が出そうになった。目覚めてから、やけに感傷的になっている気がする。事故で頭を打ったせいかしら。

　三和土からつっかけを持ってきて、ボウルを抱えて庭に出た。体を支えるものは何も無いから、ふらつきながらやっとの思いでブルーベリーにたどりつく。一粒一粒、丁寧に穫り、またフラフラと家に戻った。洗って食べてみると、酸っぱいのにやけに甘ったるくて涙が出た。北斗くんに出会う前の環境にいることが怖かった。

　どうしようもなく会いたい。

　会えるためならなんでもする、と言いたくなった。離れて数時間しか経っていないし、距離で言えば車で1時間程度で、しかも2日後には会えるのに、ぐんと遠くに離れてしまったような気がして会いたくてたまらなかった。何かしらの中毒の人がそれを求めて頭をかきむしるような、切実な衝動だった。

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