序章 『転生』 ページ1
『う、嘘でしょ………くっ、お前だけは許さないからなっ!』
陽が傾き、日差しが和らぐ夕方。
学校や会社から帰宅する人達で賑わう街中に、一人の少女の声が響き渡る。
その少女は周りの目線も気にせず、若者達に人気の漫画【鬼滅の刃】を読んでいた。
(だってさ、しのぶちゃんが童磨の野郎に殺されたんだよ!?くっそ、私の推しを殺すなんて、いい度胸だなぁ!?)
ギリッと歯噛みをし、ため息とともにパタンと漫画を閉じる。
鬼滅は面白い。興味本位で読んでみたが、予想以上の面白さだ。
(はぁ………物語が進むにつれて推し達が無惨にも死んでいくよ)
『もし、私が鬼滅の世界に行ったらどうなるのかなぁ』
にへら、と妄想を始めるが、どうせ下っ端のモブ程度だろう。
それでも、推しと一緒にいれるなら………そこまで考えて自笑する。
『もしこの世に神様がいるならば、来世は鬼滅の世界にしてください。あわよくば、力も』
目を閉じて空を仰ぎ、自身の願い(欲望)を言う。
周りの人達はギョッとして少女を見つめるが、本人は上の空だ。
明日、少女の学校に【オタクの生徒さんが〜】みたいな電話が来ない事を願うだけ。
その時、周囲から動揺と悲鳴が上がる。
何事かと見れば、一台の大型トラックが赤信号を無視して爆走していた。
運良く、横断歩道を歩いている人はいないが……危険運転とガードレールや歩道に突っ込む前に通報しよう。
少女がおもむろにスマホを取り出そうとした時、ふっと一人の少年が視界の端を通る。
慌てて静止の声をかけるが、少年はイヤホンをしていて届かない。
『ちょっ……待ってッ!!』
少年の腕を掴んで後ろへ放り投げる。
その反動で少女の体が道路へと放り出された。
少女の瞳に映るのは、猛然と迫るトラックと青ざめた周囲の人々だけだった。
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作者名:わんフル | 作成日時:2022年4月25日 16時