神域の守り人(5-7) ページ49
「もう、時間がない……こんなところで、油売ってる暇なんか……ないんや……」
苦しみに悶えるように、喘ぐように泣きながらなな湖さんはそのフレーズを繰り返す。
“ 時間がない ”
一体何の時間が足りないんだろう……なな湖さんについてはわからないことだらけだ。
「……じゃが、『神官』がこの〈神域の森〉から抜け出し、守護の任務を無視することは決して許されぬこと。お前は既に『神官』としてあるまじき大罪を犯した身。本来なら、この〈神域の森〉に居ていい人間でもないんじゃ。その事をもっとよく考えなさい」
森の奥に避難していたいつぞやの長老さんが、なな湖さんの元に歩み寄って宥めるように声をかける。
それを聞いて、なな湖さんは悔しそうにぎり、と歯を食いしばって拳を固める。
涙は一向に止まらずに、なな湖さんは嗚咽を漏らしながら額を地面に押し込んで、拳を土に打ち込んだ。
「……………せん、ぱい……ッ」
「?」
声を上げずにすすり泣くなな湖さんの発した単語に、違和を覚える。
それは彼の口から飛び出るには馴染みのある言葉で、同時に俺たちの記憶を失っているはずの彼からは出るはずのない言葉でもあった。
「……先輩って、あの人の事?」
「ゲリラ豪雨でマ○カーした時に入ってきたあの?」
背後でズズとこいろちゃんがこそこそと話す声が聞こえる。やっぱりこいつらもそう思うか。
「ねぇ、にどみん。なな湖ってちょっと特殊だと思わない?今までちゃんと会話できたことなんてなかったのに」
バケゆかの耳打ちに俺もはっとする。
確かにそうだ。ズズやこいろちゃんは完全に理性を失っていて、会話どころじゃなかったし、言葉すら発しなかった。
それなのに、なな湖さんはーー俺たちのことは忘れてるみたいだけどーー少なくとも理性的な会話が成立する。
この差は一体、なんなんだ?
ーーとりあえず、それも含めてなな湖さんにはいろいろと聞きたいことがある。
「なな湖さん、時間がないってどうゆうこと?あんたは一体なんで俺たちと戦うの?どうして森から出たいの?……“ 先輩 ”って、誰?」
なな湖さんの前に跪いて、俯いたきりのなな湖さんに問いかける。
その翡翠色の目が、ゆったりと俺を捉えたのを確認して、その目を逸らさなかった。
しばらくして、なな湖さんは堪忍したようにゆっくりと口を開いた。
「……大体、3週間くらい前の話や」
俺はとある人間と出会った。
そう続けて、なな湖さんは思いを馳せるように目を閉じた。
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あんぴーなっつ(プロフ) - 空屋さん» コメントありがとうございます!この話のバケゆかさんなら快く守ってくれると思いますよ笑閲覧ありがとうございました! (2019年3月17日 13時) (レス) id: 236992ae33 (このIDを非表示/違反報告)
空屋(プロフ) - この作品ものすごく好きです!バケりんに守られてぇ…! (2019年3月13日 4時) (レス) id: 8e09062377 (このIDを非表示/違反報告)
あんぴーなっつ(プロフ) - もるさん» コメントありがとうございます!お褒めにあずかり光栄です……!あんまりガンガン更新はできないのですが、完結目指して頑張ります! (2019年1月30日 18時) (レス) id: 236992ae33 (このIDを非表示/違反報告)
もる(プロフ) - 作風とか設定がしっかりしてて大好きです!混ぜメンのキャラにどれも合っててどのメンバーも好きになっちゃいます 更新大変だとは思いますが、頑張ってください応援しています(^○^) (2019年1月28日 18時) (レス) id: 14f50223ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あんぴーなっつ x他1人 | 作成日時:2018年9月16日 20時