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《桃》ひとりの夜に2 ページ48

〆.



お酒を何度もおかわり。

普段は飲まないけれど、やっぱり飲まなきゃやってられないもん。

誰かに愚痴れるはずもなく、

愚痴れるほど嫌いになったわけでもなく、

やり場のない感情を持て余していた。



「A〜」

「ん?……あ、望くんだー」

「ちょっと飲みすぎなんちゃう?」

「そんなこと、ないもん」

「顔真っ赤やで。俺上がりやし、店出よ?外の空気浴びよ」

「うー……」



財布を出していると、その隙に望くんが全部支払ってくれた。

返す、と言っても無視。「家どこ?」って。

もしかして、送っていってくれるつもり?

どこまで優しいんだか……。



「いい、ひとりで帰れる」

「無理やろ。ぐでんぐでんやん」

「んーん、」

「いや、動きは確かにしっかりしてるけど、話し方ふわふわしてる。危ない」

「……望くんはちゃんと、大事な人と過ごしなよ」

「え?」



財布をぐいぐい押し付ける。

望くんはやっぱり受け取ってくれない。



「望くんのお金、ほんとは使いたい人別にいるんでしょ?払わせてごめん、も、その中身全部取ってって」



彼のことを気遣っているふりで、

本当はひとりになって泣きたかった。

送ってなんていらない。

優しさなんていらない。

全部一瞬だけの慰めにしかならないのだから。



「…………A、あいつと別れたん」

「………………ストレートだね。否定しない、できない」

「やから、泣きそうなん」

「それも同じく。……察して、はやくばいばいして」

「嫌や」

「望くん、」



それ以上彼は何も言わず、

私も何も言えず、

私が言わなかったからか彼の家に辿り着いた。



「彼女は、」

「おらん」

「友達は、」

「バイト入れたから誘われへんかった」

「家族は、」

「一人暮らしやから」



じわじわ、じわじわ。

なんともいえない落ち着きと暖かさ。

今だけでも、私は彼に甘えていいんだろうか。



「まさか別れるとは」

「私もわかんなかった。別に好きな子いて、付き合うことになったんだって」

「は?まじか…………俺がなんのために………」



望くんは自分の前髪をくしゃっと掴む。

もともとお酒に弱くない私は、

さーっと醒めゆく酔いに後悔を覚え始めた。



〆.

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(プロフ) - 『助けて』がものすごく好きで何回も読み直しちゃいます!!作品って出ないですかね、、?( (2021年4月13日 17時) (レス) id: 2564ce127a (このIDを非表示/違反報告)
はゆな(プロフ) - 瀬結さん» コメントありがとうございます♪どうぞどうぞ、私もめちゃくちゃ好きな設定なので普及してほしいです(笑)頭の中でも執筆するでも自由に妄想してくださいませ! (2020年4月2日 11時) (レス) id: 0477dc60f8 (このIDを非表示/違反報告)
瀬結(プロフ) - 『神ちゃんラブな君に。』がドストライクすぎます!!最高です!!勝手に続き妄想しててもいいでしょうか?? (2020年4月2日 7時) (レス) id: 3ef3bc6ba7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - カフェのカレ内容好きすぎて…続編期待してもいいですか?! (2019年6月3日 1時) (レス) id: fadb0e3e13 (このIDを非表示/違反報告)
名無し61216号(プロフ) - なつの恋びと最高でした普通に小説で出していただきたいくらいです!これからも頑張ってください (2019年4月30日 16時) (レス) id: f0a5adcd2e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はゆな | 作成日時:2019年4月22日 18時

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