Episode 1 ページ2
橙side
午後7時。
仕事を終わらせ、急いで家へ。
家に着いたら洗濯物を取り込んで、風呂を沸かして。
部活で帰りの遅い息子のために、夕食を作る。
妻がこの世を去って、早10年。
この生活も、大分慣れてきた。
もう少しすれば、息子も帰ってくるはずで。
“ただいま!腹へった〜”
なんて言いながら、笑顔で部屋に入ってくるのがすぐに想像できる。
そんな息子を見て笑いながら、俺も一緒にご飯を食べたりして。
何気ない日常が、こうして今日も終わっていくんや。
···この日も、そうなるはずやったのに。
ー
突然鳴り響いた、1本の電話。
「はい、もしもし」
『あのっ、桐山さんのお宅で間違いないでしょうか?』
「あ、はい」
『私、望くんの担任の○○なんですがっ···』
「···え?」
時間が、止まった気がした。
考えるよりも先に動いた体。
作りかけの料理なんてそっちのけで、急いで車に乗り込む。
いつもと同じ速度のはずの車は、何でか遅く感じられて。
意味もなく1人で苛立って、ハンドルをぎゅっと握りしめた。
「くそっ···!」
さっきの先生の言葉が、頭を駆け巡って離れへん。
“望くんが、救急車で□□病院に運ばれました!急に頭を抱えて倒れてしまって···。今から病院に向かうことは可能ですか!?”
10年前、突然倒れた妻の姿が頭をよぎって。
「お願いやからっ···つれていかんといて···」
誰もいない車の中で、俺の声が響いて消えた。
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