16. 強くなんてない ページ16
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朗希から
Aに励ましてもらったという話を聞いて
強いな、と思った。
自分自身、大切な人を亡くして
きっと今日も辛いはずなのに
同じ境遇の朗希を励ましていて
ほんとにあいつは強い。
______________そう思っていた。
ダグアウト裏の通路。
滅多に人が来ない場所。
そこにあいつは、Aはいた。
18 「_________A、?」
『っあ、由伸、。ごめん、邪魔やったね』
18 「いや、全然ええよ。」
『..................怖いんよ、』
そう言ったAの手は、微かに震えていた。
『なんも出来んかった、助けもせんかった。......見つめることしかできんかった。』
『今でも夢に出てくるんよ、あの光景が。』
毎年、3月に差し掛かってくると
Aはよく魘される。
12年間、あの日の恐怖を1人で抱え込んできた。
『お母さん見殺しにしたやつが、テレビに出てええんやろか』
また、一段と大きく手が震えた。
18 「それとこれは関係ないで。大丈夫。」
大丈夫、としか言えない自分に
無性に腹が立つ。
『......うん。』
『なあ、由伸。』
___________ちょっとだけ、抱きしめて?
僕より何倍も小さな震える体を
そっと、優しく抱きしめる。
この小さな体に
不安も、期待も、後悔も、なにもかも
全部一人で背負っているんだ。
それを悟られないようにと、
いつもAは
無意識のうちに
アイドルの、笑顔の結城Aを演じている。
『............よし、もう大丈夫。』
ありがと、って
いつもの笑顔を見せて
駆けていったA。
僕もダグアウトに戻った。
スタッフ「スタジオと繋ぎます!」
「本番5秒前!4、3、2______」
『今日も東京ドームは満席。試合開始前ですが熱気と歓声に包まれています!』
『______あの日から、12年。風化させないために、私たちに何ができるのか。』
『多くの人が、前を向いて進もうとしています。それを、野球を通して感じて欲しい。マウンドに立てることに感謝したい。先発の佐々木選手は、そう語ります。』
『野球を通して、今日という日が少しでもいい日になれば、そう思います。』
やっぱり。
____________Aは、強い。
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作者名:京香 | 作成日時:2023年7月20日 19時