戦犯 TheLastBorder

魔王、ここにあり ページ29

「純粋そうな瞳も、涙に濡れて腫れてしまえばもったいないじゃないか……」

うっすら笑みを浮かべ、やれやれと言うように首を振りながら立ち上がる。片手にはコーヒーカップ。紅茶が微かな湯気と、ほのかに甘い香りをたてている。

「これでも飲んで、恐怖を振り払いなさい」

目の前に立ち、コーヒーカップを差し出してくる。魔王と思わしき男は、すごく近い。吊り橋効果(?)のせいもあり、何故かすごくドキドキする。

「……ワガママだな、飲まないと体が暖まることはないぞ？」

と、コーヒーカップを無理矢理私の口につけ、紅茶を強引に流し込んでくる。
キザ臭くもあり、だが、女の心理を知っているかのようなこの大胆な行動は、私の鼓動をさらに激しくさせた。

「顔が赤くなってる……」

ユウさんが、私を横目で見ながら言ってくる。それを言われて慌てて顔を隠すが……

「珍しくないよ、男にこんなことされたら少しでもドキドキするものでしょう？」

顔を覗きこんでいるのか、下から彼の低く甘い声が聞こえてくる。顔を近くしているのか、息が微かに届いてくる。どんな顔をしているのか、そう言えばまだはっきり見ていなかった。好奇心に負け、指の隙間から彼の顔を見てみれば……
均等に整った顔のパーツ、光を誠に受け入れ輝く銀髪、薔薇を彷彿とさせる真紅の瞳、健康的な肌艶……
そして、何故か顔を見たとたんに香ってくるなんとも言えぬ甘く中毒的な香り。香水かもしれないが、不快には思わせない。

ぼうっとしていたんだ。その一瞬で何が起きたのか分からない。気付いたら、魔王の腕の中で魔王と向かい合っていた。

「小娘？引っ掛かるな、ただの魔法だ」

と言われた気がするが、思考がはっきりしない。いつのまにか、魔王の顔しか見えていなかった。

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