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風邪で部活を休んだ翌日、岩ちゃんは難しい顔をして俺に朝の挨拶をした。
岩ちゃんが難しい顔するのは別に珍しい事ではないし、その時はただ、寝不足なだけなんだろうな。としか思ってなかったけど、それは違った。
それまでは俺に嫌々Aのところに連れられている感じだったのに、その日からはよく、『今日は行かないのか』なんて自分から聞いてくるようになったし、
明らかにAとよくコミュニケーション取るようになった。
でも変わったのは岩ちゃんだけじゃなくて、
今までどれだけ誘っても一度も俺たちの試合を観に来なかったAが、躊躇いがちではあったものの、観に来るようになった。
それだけじゃない。
だんだん岩ちゃんによく話しかけるようになって、何というか…俺たちに優しい表情を見せるようになった。
これが、こんな表情する彼女が、本来のAなんだ。って思って、嬉しかった。
そして極めつけは、Aが観に来ていた練習試合。
明らかにソワソワして落ち着かない岩ちゃんは、二階を見るたび頬がゆるんゆるん。
あんな岩ちゃんは、今までの付き合いで初めて見た。
多分、Aの事が好きなんだろう。
本人は自覚していないと見える。
今はまだそっとしておくのが最善だと思った。
俺が風邪で休んだあの日に何かあったに違いない。
これだけの証拠があれば、それは疑う余地などなかった。
ーーー
及「…それで?一体何があったわけ?」
シンとしたミナト体育館の中、人差し指でボールを転がす及川。
どうやらあの岩泉の発言は、Aからちゃんと伝えた方がいいと判断したかららしく、目の前には小さく俯くAと、そんなAに寄り添うように隣に岩泉が立っている。
そんな目の前の雰囲気が完成された二人を見て、実はもうできちゃってるのではないかと内心及川は思う。
及川が交互に二人を見ると、岩泉は優しくAの背中を押した。
「…あの、実はあの日」
躊躇いがちに一歩前にでて、覚悟した様子で話し始めるAを、二人は温かく見守った。
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作者名:うめ干し | 作成日時:2018年10月9日 18時