壱頁目 ページ1
「何の本を読んでいらっしゃるのですか?」
「ああ、これの事かい?」
童磨は読んでいた本を私に手渡してくれた。
私がこうして、信者の皆が静まり返った夜中に会いに行くと、丁度良い頃合いに童磨は本を読んでいた。
「でも…ねえ、敬語はやめておくれよ。もう父上も母上も寝てるんだからさ。」
「え〜でも前に私の母さんにバレて怒られ…」
そこで私は口を噤んだ。
いつもニコニコしている童磨の、虹色がかった目から、涙が溢れ出ている。
「可哀想に…Aちゃんもお母さんが居なくなって寂しいよねぇ…でも大丈夫だよ、君のお母さんも極楽にきっと行けたからね…」
「童磨はそうやって、みんなの為に泣くんだから…いつも心配だよ。」
泣いている彼の白樺みたいな髪をよしよし、と撫でた。
だけど、最近…何だかたまに、違和感をおぼえてしまう。
私が言った母さんは、今十三の私が、七歳くらいの時に亡くなってしまった。
肺の病気だったんだよ、と後で童磨が教えてくれたんだけど。
五歳の時にここ、万世極楽教に連れられて来た。
私くらいの年の子は、教祖である童磨と私しかいなかったからか、というか当時年端もいかなかった私は立場も弁えず、いつの間に童磨と親しくなっていた。
虹色のような目も、白樺の髪も、神の子というのも特に気にせずに。
もちろん、多少成長すれば上下関係も察しが付く。
私は信者のみんなの前では、ちゃんと童磨を教祖として扱った。
でも、昔からずっと遊んでいたせいで、本当にこの子が神の子なのだろうか、といつからか思ってしまっている。
いや、ダメ。
そんな事を考えてるなんて他の人に知られたら、何を言われるか分かったものじゃない。
「良かった〜やっと泣き止んだ…。私は童磨が笑っている方が好きだよ」
「何言ってるの、Aちゃん。俺はいつも笑ってるよ。」
「いや、そうだけど…もっとこう…なんか…」
言葉が出てこない私を見て童磨はふふ、と笑う。
「はい、これ貸してあげるね。」
そして、手にしていた本を渡してくれた。
「ありがとう!童磨」
「喜んでくれて良かった〜。これ、Aちゃんにも読んで欲しかったんだよねぇ。」
今までに無い程嬉しそうな童磨を見て、私もワクワクしながら本の表紙を見る。
「え……」
「ねえ、面白いよ、それ。」
童磨はニコニコしたままだ。
“神は人の妄想である“と書かれた私の手の中の本を指差して。
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作者名:えんら | 作成日時:2019年11月5日 2時