酒場のマスターはトリッパー II

70杯目 ページ24

どれくらい走ったんだろう・・・

足は所々に傷がついていた。

あーぁ、せっかく与謝野医師に治してもらったのに。

まぁ我慢出来る痛みならいいや。

私はふとあるショーウィンドウの前で立ち止まり、自分の姿を見た。

(この格好どうにかしなきゃ。そういえばスマホ、マフィアかな？ でも今更戻れないしな・・・)

「あれ、マスター？」

呼ばれた？

振り返るとそこには店の常連さんがいた。

綺麗な瞳だなぁー・・。

「あ、どうも・・・」

「どうしたんですっ、その格好・・ て、裸足じゃないですか!?」

「あぁ、色々あってですね。着替えもなく連絡手段もなく・・・」

「そうなんですか・・・
とりあえず店まで送りますよ」

「いやそんな、迷惑かけられないですよ」

それに、

店に戻るのも怖いしなぁ。

影の言っていた"僕"がいるかもしれない。

「僕は大丈夫ですよ。それに、前に相談に乗ってもらいましたから」(ニコッ)

その一人称に軽く反応してしまったがこの人は違う。

きっといい人だから。

「そうですか。じゃあお言葉に甘えて・・・」









幸い店の前には誰もいなかった。

(よかった・・・)

「あの、ほんとありがとうございました」

私は頭を下げてお礼を言った。

常連さんは気にしないでくださいと笑顔で言って去って行った。

(ほんといい人だなぁ)

私は店に入って足に包帯を巻き、以前買った私服に着替えた。







・・・・



(まだ感覚残ってる・・・)

唇の先を指先で触る。

(太宰さんって、私の事どう思ってるんだろう)

71杯目→←69杯目

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す