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１７歳になって数日が経つ。
春とも夏とも言えない微妙な季節。高校生活二年目を迎えた私は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
毎日が新鮮だったあの頃に戻りたいと思いつつも、今の環境も悪くは無いので文句は言わない。
「A、ちょっと来てくれ」
担任の先生が手招きをして私のことを呼ぶ。私、何か悪いことでもしたかな。いや、一応優等生の部類にはいるはずだから、後ろめたいことはない。
職員室の中へ入ると、先生はＡ４の書類を私に渡して言った。
「今年もうちの高校に何人か留学生を招くことになった」
「…また私の家ですか？」
「いや、今年は一人だ」
「……去年はほんと最悪でした。いくら私の家が旅館だからってあんなに大勢の外国人を泊めるなんて……。赤字になりそうだったんですから」
すまんすまんと、先生はおちゃらけて私に謝る。この顔はきっと、全然悪いとも思っていないような顔だ。
渡された書類に目を通すと、太眉で人懐っこそうな顔をしている男の子の写真が目に入った。
名前はピチット・チュラノン君。タイ国籍の同じ１７歳。
「ピチット・チュラノンを留学生として呼ぶなんて、この学校はいつからデカくなったんだ」
「この人、タイの俳優さん？」
「えっ、A知らないのか！？」
先生は目を丸くして言う。知るも知らないも、まず名前すら分からないんだから。そんな意外そうな顔をされても困りますよ。
「スケートとか興味無いの？」
「野球やサッカーは見るんですけど、スケートは観ないですね」
「そりゃ勿体ない。さすがにヴィクトル・ニキフォロフは知っているだろうけど、ピチットもなかなかいい選手だぞ」
ヴィクトル・ニキフォロフなら私も知っている。スケート界の生きる伝説と呼ばれる男だ。サラサラの銀髪で甘いマスクは、ロシアだけじゃなくて世界中の女性を虜にしたという。
ヴィクトルと言えばスケート、スケートと言えばヴィクトルみたいな道理で、私は彼以外の選手には詳しくもない。言ってしまえば興味なんて無い。
「ちょうどこの街にもスケート場はあるし。街案内もしてやれよ」
「話が早いですよ先生。まだ親から家で泊めるか許可を貰っていないんですから」
「んじゃあ帰ったらご両親によろしくな！謝礼もあると伝えてくれ」
絶対にこの話を断るなよ、と念を押されたような気分だ。その気分のまま、私は職員室を出る。
ピチット・チュラノンかぁ。
昼休みにググってみよ。
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作者名：いちよ | 作成日時：2017年3月18日 21時
