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リズは眠っている。今はただ静かに。

マシューも逝ってしまった。


二人一緒なら、きっと寂しいことはないだろう。

だからもう、二人のことは考えない。

今は、私がやらなきゃいけないことだけを考えよう。


「私に……できると思う?」


フレディは穏やかな目で見つめると、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「大丈夫。できるよ」


深く頷いた。


嘘でもいい。気休めでもいい。

あなたがそう言ってくれるなら、私は行ける。



だけど彼が優しすぎて……追いやったはずの弱い私が、すぐ顔を出してしまう。


「ねえ、もしも……」


視界が歪んだ。

もう泣かないって決めたのに。


「もしも……私がもっとしっかりしていたら……リズもマシューも助けてあげられたのかな……」


今更言っても仕方のないことだって分かっている。

それでもつい言ってしまうのは、フレディのせい。


彼は私の手をきゅっと握った。

人の温もり。きっと、私が失うもの……。


「姉ちゃんの友達は可哀想だったけど……俺は生きてる。姉ちゃんも生きてる。生きてる人間は止まることを許されない。命ある限り、前へ前へ押し出していく」


フレディの声がゆっくりと静かに、染み込んでくる。


この子はこれまで、どれほどの生と死を見てきたのだろう。

それを思うと、不意に違う涙が溢れた。


「だったら自分で歩いたほうが、きっといい。ね?」
「……うんっ……」
「ほら!」


彼は私の背中をバシンと叩く。


「泣いてばっかいないの!しゃんとする!俺も一緒に行ってやるから」


大きく頷いて、目を擦った。


「よし!じゃ、手出してみて?」


彼がそう言うと、掌を上に向けて両手を差し出す。


「手?……こう?」
「俺の手に乗っけて」


言われた通り、フレディの手に自分の手を重ねた。

彼は目を瞑ると、静かに唱える。


「彼の行く手に茜と山査子の棘があらんことを」
「?……なあに、それ?」


いつか前にも、同じことを言っていたような。


「オマジナイみたいなもの。祓い手たちはこうやって幸運を祈り合うんだ」
「へえ……かのゆくてに?」
「かのゆくてに、あかねと」


彼はゆっくりと言いなおしてくれた。

私も目を閉じて、それに続く。


「あかねと」
「さんざしのとげがあらんことを」
「さんざしのとげが、あらんことをーー」


力が湧いてくる気がした。

悪いことなんかもう、起こらせない。

私は自分の道を選び取る。

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作品ジャンル:ホラー, オリジナル作品
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作者名:蒼(そう) | 作成日時:2023年12月29日 0時

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