恋の話

眼鏡 × ｲｼｶﾜﾕｳｷ ページ2

「ほんと字きれいだよね」

大学の講義前、ノートのまとめをしていると頭上から聞こえてきた低めの声に勢いよく顔をあげる。

『いしかわ、くん』

名前を口にすると、彼の口は綺麗に弧を描いた。
しまった、と思ったのは声を発してからだった。

「隣、座ってもいい？」

彼の言葉に反応する事なく、ノートに視線を戻して眼鏡をくいっとあげる。

(いつもの事ながら調子狂う…)

なんて心の中で思っていると彼は、座っちゃお、なんて言いながら私の隣に腰を下ろした。

石川祐希は、バレーで世界から注目され始めているだけじゃなくて、顔、スタイル、性格までもいいから女子からの人気が凄まじい。
そんな彼が、地味な私を構っている事をよく思わない子は沢山いるわけで。

「なに1人で百面相してんのさ」

思っていることが顔に出てしまっていたらしく、恥ずかしくなる。

「ね、Aちゃん」

名前を呼ばれても反応しない。
無反応なら飽きてどこかに行ってくれると思ってたから。
でも、思いのほか石川くんもしつこくて、ねえ！って隣でずっと言われ続ける。

『もう、な____っ』

なに、と言い終わる前に言葉は途切れた。
だって顔をあげた瞬間に眼鏡をとられてしまったから。

「やっぱり」

『か、返して！』

「横顔見ててさ、まつ毛長いし鼻筋綺麗だなぁって思ってさ。髪の毛も綺麗だし。
眼鏡とったらもっと可愛いんじゃないかなって。」

当たった、なんていいながら笑う彼の顔はボヤけてあまり見えないけど、自分の顔に熱が溜まっていくのは分かった。

『うるさい！眼鏡返して！』

「うーん。俺のためにおしゃれしてくれるって言うなら返してあげる」

お調子者の彼が言う言葉なんて間に受けてはいけないと頭では分かっているのに。

その笑顔と笑い声に胸が高鳴っている気がしてしまうのは、きっと視界がボヤけているせいだから。



【眼鏡 × ｲｼｶﾜﾕｳｷ】

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