欠陥品なんかじゃない / 有栖川誉 ページ36
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「A、こんな所でなにしてるの?」
205号室の目の前に立ってドアを開けようとした瞬間、眠そうな密さんに話しかけられた。
ちょうど部屋に戻るところだったのだろう。
「有栖川先生見ませんでしたか?」
先生の名前を聞いた瞬間少しだけむっとした密さん。
「…談話室に居た。」
先生が煩くて眠れないから逃げてきたらしい。
いつにも増してテンションが高かった、と密さんが言った。
「教えてくれてありがとうございます、おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
ふわりと笑って部屋の中に消えていく密さんを見送ってから、私は談話室へ向かった。
いつもより更にテンションが高いなら受け取ってくれるかな。
談話室に近づくに連れて大きくなる先生の声。
きっと詩を詠んでいるのだろう。
「先生、ちょっといいですか?」
詩興が湧いているところに水を指すようで悪いのだけれど、早く渡さないと私の心臓が潰れてしまいそうだ。
「む、Aくんか。なんだい?」
きらきらした顔で詩を詠んでいた先生は、それをぴたりとやめて私の方を向いた。
背の高い先生に近づけば、必然的に見上げる形になる。
すうっと大きく息を吸ってから、後ろ手に隠していた小さな箱を手渡した。
「…き、今日はバレンタインなので、日頃の感謝の気持ちです。」
「あぁ、そういえばそんな行事があったね。おや、これは手作りかな?」
そう言いながら私が差し出したそれを受け取る先生。
私は頷いてからこう続ける。
「先生に、私の気持ちを伝えたくて。」
「日頃の感謝の気持ちだろう?分かっているよ。ワタシも君に感謝しているしね。」
あぁ、まだちゃんと伝わってない。
やっぱり言葉にしなきゃ、
「すきです、」
あ、やばい。
これは唐突すぎた。
先生も驚いた顔してるよ。
「いや、あの違っ…わないんですけど違うっていうか…唐突すぎましたよね、ほんとごめんなさい。」
「…今のは本当なのだね?」
先生の意外な言葉に、思わず俯いていた顔を上げた。
「ほ、ほんとです。先生のこと、ずっと前から好きです。」
熱っぽい視線を受けながらも、紅くなった頬を隠さず、先生の目だけを見てそう言い切った。
しんと静まり返った談話室で、先生の腕が動く。
そして私の手を取った。
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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし
作成日時:2018年2月14日 21時