Chocolate palette. 【A3！】 (ページ5)

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なんとなく、特別 / 皆木綴ページ5

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｢好きな人に、あげたいなって思って｣

バンドエイドの巻かれた人差し指を見て笑う彼の瞳が淡くピンクに色付いている。え、と声をもらしたあたしの口は、そのまま数秒間塞がることがなかった。

世間はやけにあまいムードに染まっている、なんて気が付けば、もうすぐ２月１４日を迎えようとしていた。今までそんなものには目もくれないほど恋愛とは無縁だったせいか、あたしの中でバレンタインなんていう行事はなくて。同じ寮に住む“彼”の言葉で思い出すほどのものだった。

皆木綴。MANKAIカンパニーの脚本家、兼役者。あたしより２つ年上の彼は、平々凡々という言葉が似合うような人だった。垂れた目尻も薄い唇も、優しい口調だって平凡で。お兄ちゃん気質、というのだろうか、誰に対しても自分に甘えさせるような態度が余計にそう思わせた。
だが、何を隠そうあたしはこの皆木綴という男に絶賛片想い中である。恋愛、なんて言葉とは程遠い世界にいるあたしが、なんてことも思ったが、１度好きだと思ってしまったらもう後には退けない。垂れた目尻も薄い唇も、優しい口調だって好きだと思ってしまうものなのだ。

そんな相手から突然告げられた“好きな人”という単語。あたしが動揺を隠せないのも当然のことだった。だって、彼に好きな人がいるだなんて知る由もなかったのだから。

いつものように垂れた目尻が、いつもとは違って少し照れくさそうにそっぽを向く。何も言えなかった。はくはくと口を動かすあたしを見て、少し不審そうに目を細める。なんだよ、とおでこが軽くはじかれて、慌てて声を絞り出した。

｢そ、んなん聞いてないし、！｣

｢なんでお前に言わなきゃなんないんだよ｣

｢それはそーだけど、でも｣

好きな人に好きな人がいるって。
急に言われたあたしの身にもなってよ。

なんて、言えるわけもなく。結局何も言い返せずあたしはキッチンをあとにした。後ろからおい、なんて呼び止める声が聞こえるけれど、振り向く訳には行かない。

彼に好きな人がいたことではなくて、それを今まで教えてもらえなかったことが嫌だった。別にあたしに言う義理はないし、必要性も特にないんだけれど。その存在をほのめかすぐらい、していても良かったのではないか。あたしに相談してくれたって良かったではないか。その時はその時で、きっとあたしは落ち込むんだろうけどさ。

そんな我儘な自分に、彼のことを何も知らない自分を、舌を出して馬鹿にしたい気分だ。