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あまい / 兵頭十座 ページ22

小さな赤色の紙袋を胸に抱え、深呼吸をひとつ。
大丈夫、渡すだけだから。

…今まさに、その"渡すだけ"ができなくて困ってるんだけど。


昨日時間をかけて作った本命チョコ。
渡す相手はO高一の不良と恐れる者もいる兵頭十座くん。
不良が好きなんて変わっているなんて言わないでほしい。
第一、兵頭くんはとてもいい人だ。
私は優しい彼に惚れたんだから。

しんと静まり返った廊下で彼を待つ。
今日は放課後に補習があるって言ってたから。
がらがらと響いた教室の扉が開く音。
その音に驚いて、柱の向こうに隠れてしまった。
でてきたのはやっぱり彼で。

「…兵頭くん、」

小さく名前を呼べば、ぴたっと歩みを止めてこちらを振り向いた。
なぜ呼び止められたか分からない、と言うような顔の兵頭くん。
少し眉を潜めているだけなのに迫力満点だ。
そんな彼に先ほどの赤い紙袋を渡す。

「今日、バレンタインだから…」

下を向いたまま腕だけを前に出してそう言った。
彼に伸ばす手が震えているのが恥ずかしくなって目を固く閉じる。

「…俺に、か?」

誰かと間違えてねぇよな?と心配そうに聞いてくれた彼に、一生懸命頷いて返す。

「兵頭くんのために作ったの。」

私がそう言うと、数秒後に手から紙袋が離れた。
一瞬指にあたったのは兵頭くんの手かな。
がばっと顔を上げて彼を見ると、すごく嬉しそうにはにかんでいて、

「あざっす。」

あぁ、君ってそんな可愛く笑うんだ。
新しい彼の顔を垣間見て、自然と上がる口角。
これは笑顔というよりにやにやしてるだけなんじゃないか、恥ずかしい。

それ以上話すことが無くてお互いに黙り込んだ。

「…私、帰るね。」

「あぁ。」

「それ、義理じゃないからね…!」

そう言ってすぐ彼に背を向けて走る。
今、絶対顔真っ赤だ。
風をきって廊下を走り抜けたつもりでも、足の遅い私はなかなか彼との距離を取れない。
こういう時ぐらい早く動いてくれよ、私の足。

「ホワイトデー、」

突然、よく通る低い声が廊下に響いた。
私は射的に足を止め、後ろを振り返る。
そこには、少しだけ顔を赤らめた兵頭くん。

「ホワイトデー、楽しみにしとけ。」

「えっ」

それだけだ、と言ってスタスタろ歩いて行ってしまった。
取り残された私はその場に座り込む。

「…期待してもいいのかなぁ、」

顔を触ってみると、少し熱かった。
すごく緊張したなぁ。
それでも渡せてよかった。


これが恋、か。


甘くて、熱くて、とろけそうな恋。

言い訳なんて甘かった / 伏見臣→←▽



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作者名:Chocolate palette.製作委員会 x他4人 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年2月14日 21時

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