# 7日目 ページ4
.
「__足、痛くない？」
祭り提灯に照らされた牛沢の横顔を見つめていると、ふと、いつもと違った優しくぎこちない声が降ってきた。
『あ…うん、平気、』
「ん、それならよかった」
…なんか、むず痒い。
いつもの牛沢なら、私のことを茶化すばっかりでそんなことひとことも言わないのに。
__そもそもどうしてこうなったのか、遡ること数十分前。
約束通り夏祭りの会場に集まった私と牛沢、フジとキヨは、食べ物や射撃などの出店も程々に花火を見る場所を探し始めた。
「俺穴場知ってる！」というキヨの一声に釣られて、一行で歩き始めた…はずが、いつの間にか牛沢と私は溢れんばかりの人の波の中に取り残されていた。
あのクソガキ、言い出しっぺの癖に置いていくか普通…なんて少し怒りながら歩いていると、不意に少し強い力で左の手首を引っ張られる。
『うわっ、！？』
「あー、…ごめん。人増えてきたし、はぐれたらダメだなって、思って」
人混みの中でぎこちなく、目も合わせずギリギリ聞こえるかどうかくらいの声で話した牛沢が、私の手首を掴んでいた手の力を緩める。そっちから掴んできたくせに、何その気まずそうな顔は、何その恥ずかしそうな顔は。
普段と違うシチュエーションが、こんなに私たちの関係を一気に青く変えるなんて、知らなかった。
『……なんか、今日の牛沢、すごい変だよ』
「…うるせ」
思ったままを伝えると、プイッと顔を背けてまた歩き出す。今度は優しく、それでいて離さないように掴まれた腕が、熱い。
照れ臭そうに前を向く牛沢の口が開いた、その時だった。
私たちの背後で、大きな夏の花が咲いた。
「__Aがいつもより綺麗で、調子狂うわ」
私は、花火の音に隠れるように呟いた牛沢の言葉を、私にしか聞こえないくらいのその声を、眩しい閃光と共に記憶の箱に閉じ込めた。
今年の花火の色は、__何色って、言えばいいんだろう。
私が消えるまで、あと93日。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 114人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sssato310(プロフ) - コメント失礼します。このお話すごく好きで堪らなくて8回くらい読み返してます。もう更新されないのでしょうか、、、アピスさんの作品とても好きなので更新されるの楽しみにしています！ (2022年4月2日 0時) (
レス) id: 5031cdb017 (このIDを非表示/違反報告)
かけたま - コメント失礼します。いや、面白すぎて凄いです。ごめんなさい語彙力無くて。^_^でもすっごい感情とか、情景が伝わってきて毎回楽しいです…。これからも楽しみにしてますねしてますね！！！！ (2021年10月21日 21時) (レス) @page17 id: a9aad67263 (このIDを非表示/違反報告)
アピス(プロフ) - ゆのまるさん» ゆのまる様、コメントありがとうございます。勿体無いお言葉まで頂いて、本当に嬉しいです。これからもゆっくり更新となりますが、何卒宜しくお願い申し上げます。 (2021年6月10日 16時) (レス) id: 7d62638449 (このIDを非表示/違反報告)
ゆのまる(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します…！作者様の言葉の選び方が本当に素敵で読む度、お話に惹き込まれてます(; ;)そして、更新ありがとうございます！今後の展開がとても気になるので、無理せず頑張ってください…！応援してます！ (2021年6月10日 0時) (レス) id: 587b75f302 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：アピス | 作成日時：2021年5月14日 3時
